2019年8月30日金曜日


        9月の旬
                 花ニラ
             薬剤師 橋本紀代子

ニラの黄緑色のつぼみと花茎を「花ニラ」といい、食用にします。花が美しい園芸品種も「ハナニラ」といいますが、これはまったくの別物で、食べられません。
 葉ニラからも収穫できますが、「テンダーポール」「マルイチポール」など花ニラ専用の品種もあります。花ニラは葉ニラより穏やかな香りとシャキッとした歯ごたえ、甘味が特長です。
 ニラの原産地は中国です。『古事記』『万葉集』にも記載があり、江戸時代は薬草として利用されていました。日本で花ニラを食すようになったのは、戦後。中華料理の普及にともない、家庭でも食べられるようになりました。旬は59月です。
 独特の香りはアリシンなどの硫黄を含む揮発物質で、胃液の分泌を促し、内臓の働きを良くします。また、ビタミンB1の吸収を高め、新陳代謝を活発にします。便通を整える働きがある食物繊維が多く、β-カロテン、ビタミンB2、ビタミンC、セレン、カルシウム、カリウムなども含みます。
 漢方では冷え症や子どもの夜尿症、寝汗、風邪などの予防、二日酔い、花粉症にも効果があるとされています。
おいしい食べ方と保存方法
 お浸しは30秒ほど熱湯でゆでてザルにあげ、水気を拭きとり、5㎝の長さに切って、めんつゆやポン酢に浸け、削り節をかけていただきます。ゴマ油、塩で味を調え、いりゴマを指でつぶしながら混ぜれば、ナムルに。
 生の花ニラを5㎝くらいに切り、肉や卵と炒めてオイスターソースで味付けしても。スープの具にしてもおいしいです。
 保存は湿らせた新聞紙などに包んでポリ袋に入れ、立てて冷蔵庫の野菜室に。
 冷凍保存は水洗い後、水気を拭きとり、適当な長さに切って保存袋に入れます。使うときは、凍ったまま炒めものなどに。
【「食べもの通信」9月号より転載】


2019年8月5日月曜日


江戸庶民のしたたかなエコ生活
                         都教組元委員長 工藤芳弘

  心豊かに生きていた江戸庶民
江戸時代は、身分制度や御
上の規則に縛られた封建社会。自由もなく窮屈な生活を強いられ、なおかつ電気やガスもない不便な生活だった。江戸時代は、このように捉えられてきたのではないだろうか。
確かに現代の私たちが江戸にタイムスリップしたら、その暮らしには不満タラタラだろう。しかし、その江戸が、いま見直されている。
江戸の庶民は、不幸せであり、日々の生活に困窮し切っていたのかというと、実はそうでもない。当時の書物や資料などがそれを裏付けている。そして、そこに見られるのは、江戸庶民のしたたかさである。 
江戸の庶民は、モノやおカネがなくても、足りないものを補い、助け合いと工夫で、日々の生活を豊かにしていた。人々は、金銭的に恵まれていなくても、毎日の生活を楽しみ、心豊かに生きていたのである。そして、その原点は、人々のもつ共同の力ではなかったか。江戸を知れば知るほど、その思いは強くなってくるのである。

今に生きる江戸のルーツ
 日本文化のルーツは江戸にあると言っていいだろう。
 2013年、ユネスコ無形文化遺産に登録された和食のルーツは、言うまでもなく江戸の食文化だ。今につながるだしの文化や、味噌と醤油の調味料も江戸が原点だ。屋台文化が発祥の、寿司、天麩羅、蕎麦、うなぎの蒲焼きなどもすべて江戸のグルメである。
 また、歌舞伎や浄瑠璃、落語、浮世絵、戯作などの興りも江戸であり、庶民の文化として栄えた。また、江戸市中には、庶民の子どもが通う寺子屋があり、当時の識字率は世界でもトップクラスだった。文学が庶民のものになったのも江戸。『南総里見八犬伝』や『東海道中膝栗毛』がベストセラーになったのはこの識字率によるものだろう。

100万都市のエコロジー
 江戸は100万人を超える大都市だったが、その衣食住はどうだったのか。とりわけ大都市の衛生面は気にかかる。
中世から近世にかけてのパリやロンドンといった大都市の衛生状態が極めて劣悪だったからだ。室内便器を利用していた市民が、汚物を2階の窓から道路に投げ捨てていたという。それでペストやコレラが発生したのである。
 ところが江戸では、糞尿は貴重な肥料として高値で取り引きされていた。有機廃棄物のリサイクルというわけだ。
 江戸では、糞尿のほとんどすべてが肥料として利用されていた。肥料の質は収穫を左右するので、農民たちは、裕福な商人や武家から出されるものを欲しがり、先を争って買い求めた。そのために価格が高騰し、幕府が介入することもあったという。つまり、糞尿は商品として流通しており、農民や汲み取り業者によって、関東各地へ肥船などで運びだされていたのである。
大都市江戸が、極めて清潔に保たれていたのは、始末に困る糞尿を肥料として利用し、なおかつ農業の生産性を高めるという循環システムができていたからである。
葛飾北斎は、用を足す武士を漫画にしている。厠の外では3人の家来が鼻をつまんで待っている。ドアは下半分しかないので長屋のトイレだろうか。一目で利用者がわかる。
滝沢馬琴は、「日記」の中に、汲み取りにきた農民との取引の様子を記している。
馬琴の家族は、大人5人と子ども2人。農家とは大人6人に換算して汲み取り契約していたが、農民は大根とナスを5人分しか持ってこなかった。馬琴は6人分を持ってくるよう強く主張している。
また、『柳多留』に、「店中(たなこ)の尻で大家は餅をつき」という川柳がある。年の瀬に、長屋の大家が汲み取り代を一括して受け取り、正月に餅がつけたという風刺だ。
江戸庶民の生活には、エコロジーがあふれている。いま地球規模の課題となっている温暖化やプラスチックごみの問題を知ったら、江戸の庶民はどう思うだろうか。


                              8月の旬
                       そうめんカボチャ
                        薬剤師 橋本紀代子
 黄色い果肉が糸のようにほぐれ、そうめんのように見えることから名付けられました。和名は「キンシウリ(金糸瓜)」。「ナマスウリ」「糸カボチャ」の別名もあります。シャキシャキした食感が特徴です。ズッキーニと同じペポカボチャに分類されます。
 ペポカボチャの原産地は北アメリカ。ポルトガルを経て、全世界に広がりました。そうめんカボチャは19世紀終わりごろ、中国を経由して石川県に伝わりました。現在は「金糸瓜」の名称で、地元のJAなどが認定する「能登伝統野菜」の一つです。中国地方から東北まで各地で栽培されていますが、生産量はあまり多くなく、直売所などで販売されています。旬は79月です。
 低カロリーで、ダイエット食材として注目されています。β-カロテン、ビタミンC、カリウム、カルシウム、食物繊維を含みますが、含有量は多くはありません。
 漢方では、体にこもった熱を冷ます働きがあり、夏を乗り切るのによい食材とされています。
おいしい食べ方と保存方法
 ゆで方は両端を切り落とし、4等分ほどの輪切りにして、スプーンで種とワタをとり除き、沸騰した熱湯(塩は入れない)に入れてふたをし、1520分ほど煮ます。水にさらしながら手で果肉をほぐし、ザルに上げて水を切ります。
 三杯酢など酢のものでいただきます。そうめんのようにめんつゆで食べても。欧米ではパスタのようにソースを絡めていただきます。また洋風だしや和風だしで炒め煮のようにしても美味です。キッシュやケーキに使用しても。砂糖で煮詰めればジャムになります。
 丸ごとなら風通しのいい冷暗所で数カ月保存ができ、寝かせると繊維がほぐれやすくなります。ほぐしたものは冷凍保存できます。
【「食べもの通信」8月号より転載】