2023年7月25日火曜日

 江戸 壊れたら何でも直す


元都教組委員長 
工藤芳弘

 

江戸時代は今と違って物も資源も限られていました。そのために物が壊れても新しく買い換え替えたりすることはあまりなく、修理するというのが当たり前でした。「もったいない」というのが江戸の考え方だとも言われますが、「修理したほうが安い」からという理由で自然にそうなったのではないのか。江戸の庶民の気質を考えると、その方がふさわしいような気もします。

江戸の町には、日用品に対応した様々な修理屋が存在していました。江戸がリサイクル社会だということについては、これまで何度か触れてきましたが、江戸では壊れることを前提に物が作られていたのではないかとさえ思ってしまいます。

瀬戸物修理の「焼継屋」

 例えば毎日使う食器類。江戸では陶器全般を瀬戸物と呼んでいました。瀬戸物は、使っているうちに欠けたり割れたりします。現代社会では、割れた食器はゴミとして回収されるのが日常です。

しかし、江戸では大きな籠を天秤棒に下げて「焼継屋」が廻ってきました。白玉粉という鉛ガラスを溶かしたもので割れた瀬戸物を接着して焼き直す修理屋です。

生漆を使った「金継ぎ」は、今でもよく知られていますが、仕上がりまでに一か月もかかります。焼継はすぐに修理できるので、気の短い江戸っ子の気質に合っていたのかもしれません。

金属修理の「鋳掛屋」

江戸時代の鍋や釜はすが入りやすく、細かい穴が空くことがよくありました。しかし、金属製のものは非常に高価だったため、買い換えるのは江戸庶民にとって簡単なことではありませんでした。

当然ながら、ここでも「鋳掛屋」という修理屋が繁盛します。「鋳掛屋」は七輪や鞴(ふいご)を携えて廻り、その場で、鍋や釜の修理を行っていました。

桶や樽修理の「箍屋」

「箍(たが)を外す」という言葉があります。「規律や束縛から抜け出す。羽目を外す」の意味で使われますが、箍というのは、桶や樽の周りを締める竹で編んだ輪のことです。 

しかし長い間、桶や樽を使い続けていると箍は緩み、板が外れてしまいます。この箍の付け替え業が「箍屋」です。

木の桶や樽は、今では珍しいものになっていますが、「箍屋」という商売は今もあるのではないでしょうか。

また、「緩んだ規律や心持ちを引き締める」ことを「箍を締める」と言いますが、大事なことです。

「雪駄直し」「下駄直し」

江戸の町では雪駄や草履、下駄なども修理して履いていました。修理していたのが「雪駄直し」や「下駄直し」の職人です。「雪駄直し」は、鼻緒のすげ替え、裏革の剥がれや踵の打ち替えなどを行っていました。裏革まで減ってしまうと雪駄や草履がだめになってしまうのです。減ってきた踵の部分を替えてもらえば再び快適に履くことができました。

同じ履物でも下駄は、「雪駄直し」とは別の「下駄直し」職人によって行われていました。下駄の歯はすり減ると差し替えます。また、鼻緒もすげ替えをしていました。

この他にも江戸の修理屋は多種多様。切れ味が悪くなった包丁などの刃物を研ぐ「研ぎ屋」、錠前が壊れた時に修理を行う「錠前直し」、算盤の修理、交換を行う「算盤直し」、曇った鏡を磨いて、水銀などを塗って修理する「鏡磨き」、その他にも、「提灯張り替え」「印肉の詰め替え」「炬燵の櫓直し」「眼鏡の仕替え」石臼の目立て」「羅苧(らお)屋」(煙管直し)など、日常生活で使われるありとあらゆる物の修理屋がありました。

壊れてもそれぞれに修理する職人がいた江戸では、物は直して使うということが当たり前のことだったのです。

                 8月の旬 

             マイワシ(真鰯)

           薬剤師 橋本紀代子 

 イワシの名前の由来は、鮮度が落ちやすく「弱し」だから、またはたくさんとれて「卑し」いからなど、諸説あります。

 マイワシは体側部に黒い斑点が連なっているのが特徴です。

 春から夏には群れが北上して沿岸に近づき、秋には脂がのった「下りイワシ」が南下します。

 かつては日本の総漁獲量の3割を占めていましたが、近年は不漁が続いています。 

 マイワシにはカルシウムと、その吸収を助けるビタミンDが非常に多く、神経を修復する作用があるビタミンB12や、抗酸化作用をもつ微量元素のセレンも含まれています。

 血合い肉(筋肉のうち暗赤色の部分)はマイワシの全肉の2割近くあり、EPADHAなどオメガ3系の必須脂肪酸や、鉄分が豊富に含まれます。脂肪は酸化によって臭みに変わるので、鮮度が大事です。

 イワシは昔から虚弱体質を改善する、筋肉や骨を強くするといわれています。

おいしい食べ方

 甘辛煮は、頭と内臓を除いて流水で洗い、ぶつ切りにします。ざるにのせ、熱湯をかけて臭みをとります。しょうゆ、酒、みりんを沸騰させ、そこにイワシと千切りショウガ、または臭み取り効果のある梅干しや長ネギを入れて15分煮ます。

 さんが焼きは房総半島(千葉県)の伝統料理です。イワシを手開きして骨と皮を除いた身と、みそとみじん切りにした長ネギやおろしショウガを合わせて、なめらかになるまで包丁でたたきます。食べやすい大きさに形を整えて、油でこんがりと焼いたら、両面に青ジソをのせて余熱でなじませます。イワシのつみれ汁も人気です。

 酢みそあえは開いた身に塩を振って10分おき、水洗い後、酢に10分漬け、皮をはいだら食べやすい大きさに切り、小口切りした長ネギと酢みそであえます。

【「食べもの通信」8月号より転載】