江戸庶民の夏の過ごし方
近年の猛暑に耐えかねている人も多いかと思います。地球規模の温暖化は、自然環境や人の暮らしに大きな被害をもたらし、最近では気候危機とまで言われています。
それでは数百年前の江戸の夏はどうだったのか? 調べてみると、夏の平均気温は現代より2~3度低かったようですが、それでもやはり夏は夏です。エアコンや扇風機などない中で、江戸の庶民は様々な工夫を凝らして暑さを凌いでいました。
夏の定番ファッション浴衣
浴衣は平安時代には沐浴する際に着用するものでしたが、
木綿と入浴の習慣が普及した江戸では、風呂上がりに羽織るものになりました。また、湯屋の帰りや夕涼み、家でくつろぐ際にも着られました。肌触りがよく吸水性も高い木綿の浴衣は、夏を涼しく過ごすために重宝されました。
夏のイベントグッズ団扇
中国から日本に伝わった団扇は、江戸に入って庶民に普及し、炊事の火起こしに使うなどの実用品ともなりました。団扇を扇風機の羽のようにした「手動扇風機(手回し団扇)」(挿絵)も考案されましたが、今の扇風機の原型です。
夏に欠かせないアイテム
江戸には運河が張り巡らされており、至る所で蚊が発生しました。蚊は伝染病も媒介するため、蚊帳を売り歩く振売が町中を流していました。
蚊帳を持っていない人たちは、蚊が嫌う成分を持つ植物をいぶすことでその煙を使って追い払っていました。「蚊遣り」と呼ばれる方法で、「蚊火」「蚊いぶし」「蚊くすべ」などとも呼ばれました。木片や薬草のような植物を燃やして蚊を追い払いましたが、それが今の蚊取り線香に進化しました。
すだれは奈良時代からありましたが、部屋の間仕切りや日よけ、目隠しなどの目的で利用されました。江戸前期には職人もいて庶民にも広まりました。すだれと似たものによしずがありますが、すだれが一般的に吊るして使うのに対し、よしずはすだれよりもひと回り大きいので主に立てかけて使いました。
耳や目で涼を求める
現代のようなガラスの風鈴(江戸風鈴)が登場したのは江戸時代のことです。江戸の庶民は涼しげな音色で耳から涼を感じました。天秤棒に風鈴をぶら下げた風鈴売りが売り歩きました。
天秤棒に提げたたらいに金魚を入れ、甲高い独特な声で売り歩く「金魚売り」も夏の風物詩でした。また、「釣りしのぶ」「蛍売り」なども夏の訪れを告げるものでした。
「両国の川開き」として行われた花火も夏の風物詩で、今の隅田川花火大会に引き継がれています。江戸の庶民は耳や目で涼を求めたのです。
夏らしい食べ物・飲み物
江戸の夏に欠かせないのは鰻です。海水が混じる隅田川や深川でとれる鰻は格別とされ、江戸っ子は「鰻は江戸前に限る」と自慢しました。
心太(ところてん)も夏を知らせる庶民の味で、「ところてんやァ、てんやァ」という独特の呼び声で町を売り歩きました。また、冷水(ひやみず)売りは、「ひゃっこい、ひゃっこい」と、冷たい湧き水に砂糖や白玉を入れて売り歩きました。甘酒は冬の飲み物のように思われがちですが、江戸時代には、栄養を補給し、夏バテを防ぐためとよく飲まれました。
無理をしないで休むこと
江戸庶民の夏の過ごし方について縷々述べましたが、つまるところ、一番暑い真昼間には働かないで、涼しい朝と夕方に働き、日没までには夕食を終えて夕涼みするという人が多かったようです。無理をしないで休み、暑い夏を、五感を働かせて涼しく過ごす、そんな江戸っ子の知恵に、現代人は学ぶところが多いのではないでしょうか。
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