2024年12月13日金曜日

11月の旬

               11月の旬 

                  サバ

             薬剤師 橋本紀代子 

 数をごまかすことを「サバを読む」といいます。サバは足が早いので大急ぎで数え、数をごまかしたことに由来します。

 鮮度が重要で、内臓の処理を手早くおこないすぐ冷蔵します。アレルギーの原因となるヒスタミンなどができやすいからです。

 マサバ、ゴマサバ、タイセイヨウサバの3種類に大きく分類されます。マサバは南三陸の「金華サバ」、大分の「関サバ」、三浦半島の「松輪サバ」のように地域ブランド化されて非常に高価です。

 干もの、締めサバ、フライなど、市販の加工品は、ほとんどが外国産のタイセイヨウサバです。

  DHAEPAなどのオメガ3系の必須脂肪酸が豊富です。血中コレステロール値を下げる効果があり、生活習慣病の予防が期待できます。とくに血合い部分にはビタミンやミネラルが多く含まれています。貧血の予防や神経に良いビタミンB12のほか、ビタミンDも含まれています。

 漢方では疲れやすく、冷えの症状があり、貧血気味の方に向いている食材とされています。

 

おいしい食べ方

 

 塩焼きは内臓を取って二枚におろし、食べやすい大きさの切り身にします。皮目に1㎝間隔の切り込みを入れ、両面に塩を振って30分冷蔵庫に。水分を拭き取り、グリルで焼きます。大根おろし、カボスを添えます。

 ポリ袋に小麦粉5に対しカレー粉1の割合で入れて振り、一口大に切ったサバを投入。バターでソテーすると美味です。

 みそ煮は、みそを23回に分けて煮汁に合わせ、味をみながら加えます。

 大阪のバッテラは、白板昆布(バッテラ昆布)と合わせた押し寿司です。

 兵庫県の郷土料理「さばのじゃう」は、焼き豆腐、ネギ、ハクサイ、シュンギク、ゴボウなどの、すき焼き風の寄せ鍋です。

 根曲がり竹とサバ缶のみそ汁は長野県の郷土料理です。

   【「食べもの通信」11月号より転載】

 

2024年12月12日木曜日

江戸庶民の読書事情

           江戸庶民の読書事情

         元教組委員長 工藤芳弘            

 2025年のNHK大河ドラマ「べらぼう」の主人公は蔦屋重三郎。江戸時代に活躍した出版人で江戸の文化に大きな影響を与えた人物です。レンタルや書籍販売などを行うチェーン店「TSUTAYA」の名称も蔦屋重三郎に由来するといわれます。 

識字率と印刷技術の進歩

江戸時代にはいろいろなベストセラー本が生まれました。本を読むことが庶民の日常になったのは江戸時代からですが、その理由の一つが識字率のアップです。仕事をするために「読み・書き・算盤」が必要となり、親は子どもを6歳頃になると寺子屋や手習所に通わせるようになりました。江戸の識字率が世界最高レベルだったと言われる所以がここにあります。

もう一つは印刷技術の進歩です。かつて本は一文字ずつ手で書き写すものでしたが、木版印刷が普及した江戸時代になると、本は以前よりも安く手に入るようになります。蔦屋重三郎のような人物が登場したのは、このような時代背景があります。 

江戸の貸本屋

それでも本は今のように量産できるものではありませんでした。木版印刷は手作業であり、千冊も出版されば大ヒットです。まだまだ庶民の手の届くものではありませんでした。1968年に出された井原西鶴の『好色一代男』は2500文でした。今の値段で6万円以上(1文50円とした場合)もしたといわれます。読みたくても今のような図書館もありません。

そこで生まれたのが貸本屋です。貸本屋は出版元である地本問屋から本を購入し、その本を庶民に安く貸すという商売です。なお、地本というのは、上方からの「下り本」ではなく、江戸の地で作られた本という意味で付けられた言葉です。いわゆる大衆向けの洒落本、草双紙、読本、滑稽本、人情本、咄本、狂歌本などを指します。 

貸本屋は店を持たない

江戸の貸本屋は、基本的に店舗を持ちませんでした。本を担いで得意先を回り、新しい本を紹介したり、客が読みたいという本を持って行くなどして商売を行っていました。当時の本は和紙なので、今の本より軽いものだったこともあるかもしれません。 

また、貸本屋は一店で180件前後の得意客を持っており、それぞれ客の好みに合わせて地本問屋から本を仕入れていました。江戸後期には800店近くもあったといいますが、このことからも読書が江戸の庶民に浸透していたことがわかります。

貸本のレンタル料は

貸本のレンタル料は、「四、五冊物で銀三分から四分、現在の金で約二百四十円から三百二十円、一冊物で銀二分、約百六十円、十冊物以上になると銀一匁前後、約八百円」(長友千代治『近世貸本屋の研究』より)でした。蕎麦の値段と比較するとそう高いものでもなく、多くの人は半年から1か月ぐらい借りて読んでいたといいます。

江戸の貸本屋は、それ以前の時代にはなかった庶民の教養を高める役割を果たしたのではないでしょうか。江戸時代に庶民の文化が花開いたのは貸本屋の力があった、そう考えるのは私だけではないと思います。

貸本屋もひとつのエコ

江戸はレンタル社会で、「損料屋」という日用品を貸し出す店が繁盛していました。損料というのは賃貸料、借り賃のことで、損耗に対する代償と言う意味で損料といいました。貸本屋も同じようなシステムだといえます。本は借りて読むもの―これも江戸の知恵が生んだエコです。

            1月の旬 

     金時ニンジン

                 薬剤師 橋本紀代子 

京料理に欠かせない食材で、「京ニンジン」ともよばれます。

金時の名前は足柄山の金太郎こと坂田金時の赤ら顔が由来。

原産地のアフガニスタンから中国を経由して江戸時代に伝来した東洋種の一種です。細く、30㎝ほどの長さがあります。

西洋種に比べてニンジン特有のにおいが少ない、肉質が軟らか、甘味が強い、煮くずれしにくいなどの特徴があります。

出回るのは113月ですが、12~1月が最盛期です。

香川県が全国生産量の80%以上で、中でも坂出市がその80%を占めます。(2023年)

消費量も関西が多くなっていますが、関東でもおせちに彩りを添える野菜として人気です。

赤い色はカロテノイド色素のリコペンで、強い抗酸化作用があります。β-カロテンは西洋ニンジンの6割ほどですが、鉄分、カルシウムなどは西洋種より多く含まれています。

漢方の薬物書にはニンジンは「益あって損なし」のお墨付きが。 

おいしい食べ方

金時ニンジンのジュースは、甘くて飲みやすいと評判です。

炊きこみピラフは、といだ米にすりおろした金時ニンジン、すりおろしニンニクとバターで炒めたむきエビ、シメジ、顆粒コンソメ、水を加えて炊飯器で炊きます。

洋食の付け合わせにグラッセはいかがでしょう。皮をむき、食べやすい大きさに切ってから面取りし、水、砂糖、塩、バターで蓋をして10分煮て、さらに汁気がなくなるまで煮詰めます。

ナムルは、千切りにしたニンジンに塩を適量入れ、5分経ったら水分をしぼります。すりおろしニンニク、塩コショウ、ゴマ油、すりゴマを合わせてニンジンとあえます。紅白なます、松前漬け、煮しめ、キンビラゴボウにも。

香川県の郷土料理「あんもち雑煮」は白みそ仕立てで、あんもちに輪切りにして煮た金時ニンジンや大根などを添えます。

   【「食べもの通信」1月号より転載】