2025年5月23日金曜日

5月の旬

                  5月の旬

                  アスパラガス          

              薬剤師 橋本紀代子 

 土から顔を出した若い茎を食用にします。はかまのように付くのが退化した葉です。

 和名は「オランダキジカクシ」。雉を隠すほど生い茂っているのは、葉ではなく枝です。

 グリーンアスパラガスとホワイトアスパラガスはまったく同じ品種ですが、ホワイトアスパラガスは日光に当てないように地中で育てられたものです。ムラサキアスパラガスには、アントシアニンという色素が含まれています。小さいうちに早どりしたのがミニアスパラガスです。

 生産量が多いのは、北海道、佐賀県、熊本県(2023年)。メキシコなどから輸入もされています。旬は56月。

 グリーンアスパラガスの栄養はとても豊富で、β-カロテン、ビタミンB群、ビタミンE、鉄分、カルシウムなどが含まれ、貧血予防の栄養素がいっぱいです。

 アスパラギンが体の中でアスパラギン酸に変化して疲労回復に役立ち、スタミナ野菜ともよばれます。パントテン酸は新陳代謝を促します。穂先に含まれるルチンは、毛細血管を丈夫にし、血流を改善します。

  カリウムには利尿作用があり、高血圧を予防し、食物繊維は便通を整えます。

おいしい食べ方と保存法

 根元が硬くなっている場合は、ピーラーで皮をむき、手でポキンと折ります。ゆでるときは、1%の塩を入れた熱湯で12分。鮮度や太さでゆで時間を調節し、ざるにあげて冷まします。

 オーブントースターや焼き網で焼くと、香ばしく仕上がります。みそ1に対しマヨネーズ2を混ぜた「みそマヨ」が合います。

 ベーコンや肉で巻き、塩コショウをしてフライパンで焼くと、お弁当のおかずになります。

 なるべく早く調理して食べたい野菜ですが、冷蔵庫で保存するときはぬれたキッチンペーパーに包み、さらにポリ袋に入れて立てて置きます。

   【「食べもの通信」5月号より転載】

4月の旬 タケノコ

                 4月の旬

                   タケノコ              


                薬剤師 橋本紀代子 

タケノコは竹の若芽です。節ごとに生長点がたくさんあるので、時には一日1mという驚くほどのスピードで成長します。

 春の香りとうま味がぎっしりと詰まっていて、初物が待ち遠しくなります。

 子どものころにタケノコの皮に梅干しを三角に挟んで「梅干しチューチュー」を楽しんだ方も大勢いらっしゃるのでは。

 真竹、淡竹、根曲がり竹などのタケノコは古くから食用にされていました。

 江戸時代になると、孟宗竹が盛んに栽培されました。

 うま味成分にはチロシン、ロイシン、グルタミン酸のほか、疲労回復、スタミナ増強のアミノ酸であるアスパラギン酸も含まれています。ゆでたタケノコの白い結晶は、チロシンです。便通を良くする働きは、食物繊維によるものです。

 漢方の薬物書には痰、熱、むくみを除く、二日酔いに良いなどの記載があります。

おいしい食べ方と保存法

 タケノコは時間が経つと、「あく」といわれるシュウ酸やホモゲンチジン酸が増えます。

 新鮮であくの少ない品種は生のまま刺身でいただきます。

 あく抜きには米ぬかや重曹を用います。大根のおろし汁に等量の水、1%の塩を加えた液に切ったタケノコを1時間ほど漬ける方法もあります。

 穂先を斜めに切り落とし、縦に切り込みを入れて約1時間ゆで、鍋の中で一晩冷まします。

 ゆでタケノコを3㎜厚さにスライスしてカルパッチョに。

 若竹煮は、食べやすい大きさに切ったタケノコをだし汁、酒、みりん、薄口しょうゆで煮て、お茶パックに入れたかつお節を加え、さらに煮ます。塩蔵ワカメは水で戻して食べやすい長さに切り、最後に加えて1分煮ます。

 ゆでタケノコは20%の塩漬けにすると常温で長く保存できます。味付けタケノコは冷凍も。

   【「食べもの通信」4月号より転載】

3月の旬

             3月の旬

             ナバナ(菜の花)           

               薬剤師 橋本紀代子

 アブラナ科アブラナ属の(はなめ)など食用にするものをナバナといいます。

 香り、ほろ苦さ、独特の甘味があり、春を楽しむ野菜です。

 ハクサイ、コマツナ、チンゲンサイのナバナも食用にできます。

 和種ナバナ(在来種)は、茎・(つぼみ)・葉を、洋種はと葉を食用にします。

 ナバナは品種改良が進み、あくが少なく、茎の軟らかな多くの新種が出荷されています。

 ナバナの生産量が多いのは三重県(27%)、次いで東京都、新潟県の順です(2022年)。花蕾を食用にするものに限れば、千葉県がトップです。

 鉄分、ビタミンB2、葉酸、ビタミンCなど、貧血予防のミネラルやビタミンが豊富。女性は月経、妊娠、出産、授乳などで貧血になりやすいので、とくにおすすめしたい野菜です。ビタミンCはゆで過ぎると3分の1に激減するので、注意が必要です。

 体内でビタミンAに変換されるβ-カロテンは、皮膚や粘膜を保護します。カルシウムも多く、食物繊維も含まれています。

 スルフォラファンはファイトケミカルの一種です。発がん物質の解毒、抗酸化、殺菌などの効果があります。

 

おいしい食べ方と保存法

 沸騰したお湯に2%の塩を入れ、茎は3040秒、つぼみなどの先端部分はサッとゆで、冷水にさらします。苦味が少なくなり、食べやすくなります。

 お浸しには削り節が合います。辛子あえ、ゴマあえ、ワサビあえ、酢のもの、卵とじ、パスタの具、すまし汁にも。

 油で炒め、塩コショウで味を調えるだけでも美味です。炒めたり揚げたりするときは、下ゆでは不要です。

 保存は湿らせた新聞紙などに包み、ポリ袋に入れ、冷蔵庫で23日。冷凍するときは、硬めにゆでてから平らに並べてポリ袋に。食べる際は自然解凍で。

   【「食べもの通信」3月号より転載】

 


2025年1月の旬

                1月の旬 

               金時ニンジン

             薬剤師 橋本紀代子 

京料理に欠かせない食材で、「京ニンジン」ともよばれます。

金時の名前は足柄山の金太郎こと坂田金時の赤ら顔が由来。

原産地のアフガニスタンから中国を経由して江戸時代に伝来した東洋種の一種です。細く、30㎝ほどの長さがあります。

西洋種に比べてニンジン特有のにおいが少ない、肉質が軟らか、甘味が強い、煮くずれしにくいなどの特徴があります。

出回るのは113月ですが、12~1月が最盛期です。

香川県が全国生産量の80%以上で、中でも坂出市がその80%を占めます。(2023年)

消費量も関西が多くなっていますが、関東でもおせちに彩りを添える野菜として人気です。

赤い色はカロテノイド色素のリコペンで、強い抗酸化作用があります。β-カロテンは西洋ニンジンの6割ほどですが、鉄分、カルシウムなどは西洋種より多く含まれています。

漢方の薬物書にはニンジンは「益あって損なし」のお墨付きが。

 

おいしい食べ方

金時ニンジンのジュースは、甘くて飲みやすいと評判です。

炊きこみピラフは、といだ米にすりおろした金時ニンジン、すりおろしニンニクとバターで炒めたむきエビ、シメジ、顆粒コンソメ、水を加えて炊飯器で炊きます。

洋食の付け合わせにグラッセはいかがでしょう。皮をむき、食べやすい大きさに切ってから面取りし、水、砂糖、塩、バターで蓋をして10分煮て、さらに汁気がなくなるまで煮詰めます。

2024年12月13日金曜日

11月の旬

               11月の旬 

                  サバ

             薬剤師 橋本紀代子 

 数をごまかすことを「サバを読む」といいます。サバは足が早いので大急ぎで数え、数をごまかしたことに由来します。

 鮮度が重要で、内臓の処理を手早くおこないすぐ冷蔵します。アレルギーの原因となるヒスタミンなどができやすいからです。

 マサバ、ゴマサバ、タイセイヨウサバの3種類に大きく分類されます。マサバは南三陸の「金華サバ」、大分の「関サバ」、三浦半島の「松輪サバ」のように地域ブランド化されて非常に高価です。

 干もの、締めサバ、フライなど、市販の加工品は、ほとんどが外国産のタイセイヨウサバです。

  DHAEPAなどのオメガ3系の必須脂肪酸が豊富です。血中コレステロール値を下げる効果があり、生活習慣病の予防が期待できます。とくに血合い部分にはビタミンやミネラルが多く含まれています。貧血の予防や神経に良いビタミンB12のほか、ビタミンDも含まれています。

 漢方では疲れやすく、冷えの症状があり、貧血気味の方に向いている食材とされています。

 

おいしい食べ方

 

 塩焼きは内臓を取って二枚におろし、食べやすい大きさの切り身にします。皮目に1㎝間隔の切り込みを入れ、両面に塩を振って30分冷蔵庫に。水分を拭き取り、グリルで焼きます。大根おろし、カボスを添えます。

 ポリ袋に小麦粉5に対しカレー粉1の割合で入れて振り、一口大に切ったサバを投入。バターでソテーすると美味です。

 みそ煮は、みそを23回に分けて煮汁に合わせ、味をみながら加えます。

 大阪のバッテラは、白板昆布(バッテラ昆布)と合わせた押し寿司です。

 兵庫県の郷土料理「さばのじゃう」は、焼き豆腐、ネギ、ハクサイ、シュンギク、ゴボウなどの、すき焼き風の寄せ鍋です。

 根曲がり竹とサバ缶のみそ汁は長野県の郷土料理です。

   【「食べもの通信」11月号より転載】

 

2024年12月12日木曜日

江戸庶民の読書事情

           江戸庶民の読書事情

         元教組委員長 工藤芳弘            

 2025年のNHK大河ドラマ「べらぼう」の主人公は蔦屋重三郎。江戸時代に活躍した出版人で江戸の文化に大きな影響を与えた人物です。レンタルや書籍販売などを行うチェーン店「TSUTAYA」の名称も蔦屋重三郎に由来するといわれます。 

識字率と印刷技術の進歩

江戸時代にはいろいろなベストセラー本が生まれました。本を読むことが庶民の日常になったのは江戸時代からですが、その理由の一つが識字率のアップです。仕事をするために「読み・書き・算盤」が必要となり、親は子どもを6歳頃になると寺子屋や手習所に通わせるようになりました。江戸の識字率が世界最高レベルだったと言われる所以がここにあります。

もう一つは印刷技術の進歩です。かつて本は一文字ずつ手で書き写すものでしたが、木版印刷が普及した江戸時代になると、本は以前よりも安く手に入るようになります。蔦屋重三郎のような人物が登場したのは、このような時代背景があります。 

江戸の貸本屋

それでも本は今のように量産できるものではありませんでした。木版印刷は手作業であり、千冊も出版されば大ヒットです。まだまだ庶民の手の届くものではありませんでした。1968年に出された井原西鶴の『好色一代男』は2500文でした。今の値段で6万円以上(1文50円とした場合)もしたといわれます。読みたくても今のような図書館もありません。

そこで生まれたのが貸本屋です。貸本屋は出版元である地本問屋から本を購入し、その本を庶民に安く貸すという商売です。なお、地本というのは、上方からの「下り本」ではなく、江戸の地で作られた本という意味で付けられた言葉です。いわゆる大衆向けの洒落本、草双紙、読本、滑稽本、人情本、咄本、狂歌本などを指します。 

貸本屋は店を持たない

江戸の貸本屋は、基本的に店舗を持ちませんでした。本を担いで得意先を回り、新しい本を紹介したり、客が読みたいという本を持って行くなどして商売を行っていました。当時の本は和紙なので、今の本より軽いものだったこともあるかもしれません。 

また、貸本屋は一店で180件前後の得意客を持っており、それぞれ客の好みに合わせて地本問屋から本を仕入れていました。江戸後期には800店近くもあったといいますが、このことからも読書が江戸の庶民に浸透していたことがわかります。

貸本のレンタル料は

貸本のレンタル料は、「四、五冊物で銀三分から四分、現在の金で約二百四十円から三百二十円、一冊物で銀二分、約百六十円、十冊物以上になると銀一匁前後、約八百円」(長友千代治『近世貸本屋の研究』より)でした。蕎麦の値段と比較するとそう高いものでもなく、多くの人は半年から1か月ぐらい借りて読んでいたといいます。

江戸の貸本屋は、それ以前の時代にはなかった庶民の教養を高める役割を果たしたのではないでしょうか。江戸時代に庶民の文化が花開いたのは貸本屋の力があった、そう考えるのは私だけではないと思います。

貸本屋もひとつのエコ

江戸はレンタル社会で、「損料屋」という日用品を貸し出す店が繁盛していました。損料というのは賃貸料、借り賃のことで、損耗に対する代償と言う意味で損料といいました。貸本屋も同じようなシステムだといえます。本は借りて読むもの―これも江戸の知恵が生んだエコです。