11月の旬
クルマエビ
薬剤師 橋本紀代子
10月の旬
スルメイカ
薬剤師 橋本紀代子
スルメイカの干物をストーブで炙り、おやつにしていた子どものころ。「スルメ」は駄菓子屋でも買える庶民の味でした。
日本のイカの総漁獲量1位はスルメイカとはいえ、深刻な不漁が続いています。
スルメイカは、東シナ海からオホーツク海まで海流に乗って回遊します。地域によってとれる時期が異なるので、通年出回りますが、初夏から秋口に多く収穫されます。集魚灯が水平線に連なる漁り火は風物詩です。
脂質の含有量が低く、低カロリーという特長があります。
うまみのもとはグリシン、アラニン、プロリンなどのアミノ酸類です。スルメの粉にも多く含まれるタウリンはアミノ酸の一種で、コレステロールの沈着を抑えて動脈硬化を予防します。
漢方では、イカの身は血を養い生理不順にも良いとされます。手術後の体力の衰えや耳鳴りに効果があり、腰や脚に力をつけるとされています。
おいしい食べ方
とれたては身が透き通り、コリコリとした食感です。刺身や細切りの「イカそうめん」にして、ショウガじょうゆでいただきます。生食する場合は目視で寄生虫を必ず除きます。アニサキスはマイナス20度以下で24時間以上冷凍すれば、安全に食べられます。
サッとゆでて、野菜と一緒に酢のものやサラダに。
一夜干しは網で炙ってショウガじょうゆやマヨネーズで。七味トウガラシを振りかけると、一段とおいしくなります。イカリングなどの揚げものにも。
ゴーヤ入りのチヂミやお好み焼きにはゲソが合います。
スルメイカのワタは大きいので、ラップに包み冷凍します。刺身のように切ってワサビじょうゆで食べます。ワタに塩を振って水分を抜けば、塩辛に。
スルメとコンブを細切りにし、たれに漬けた松前漬けも美味。
【「食べもの通信」10月号より転載】
江戸 壊れたら何でも直す
江戸時代は今と違って物も資源も限られていました。そのために物が壊れても新しく買い換え替えたりすることはあまりなく、修理するというのが当たり前でした。「もったいない」というのが江戸の考え方だとも言われますが、「修理したほうが安い」からという理由で自然にそうなったのではないのか。江戸の庶民の気質を考えると、その方がふさわしいような気もします。
江戸の町には、日用品に対応した様々な修理屋が存在していました。江戸がリサイクル社会だということについては、これまで何度か触れてきましたが、江戸では壊れることを前提に物が作られていたのではないかとさえ思ってしまいます。
瀬戸物修理の「焼継屋」
例えば毎日使う食器類。江戸では陶器全般を瀬戸物と呼んでいました。瀬戸物は、使っているうちに欠けたり割れたりします。現代社会では、割れた食器はゴミとして回収されるのが日常です。
しかし、江戸では大きな籠を天秤棒に下げて「焼継屋」が廻ってきました。白玉粉という鉛ガラスを溶かしたもので割れた瀬戸物を接着して焼き直す修理屋です。
生漆を使った「金継ぎ」は、今でもよく知られていますが、仕上がりまでに一か月もかかります。焼継はすぐに修理できるので、気の短い江戸っ子の気質に合っていたのかもしれません。
金属修理の「鋳掛屋」
江戸時代の鍋や釜はすが入りやすく、細かい穴が空くことがよくありました。しかし、金属製のものは非常に高価だったため、買い換えるのは江戸庶民にとって簡単なことではありませんでした。
当然ながら、ここでも「鋳掛屋」という修理屋が繁盛します。「鋳掛屋」は七輪や鞴(ふいご)を携えて廻り、その場で、鍋や釜の修理を行っていました。
桶や樽修理の「箍屋」
「箍(たが)を外す」という言葉があります。「規律や束縛から抜け出す。羽目を外す」の意味で使われますが、箍というのは、桶や樽の周りを締める竹で編んだ輪のことです。
しかし長い間、桶や樽を使い続けていると箍は緩み、板が外れてしまいます。この箍の付け替え業が「箍屋」です。
木の桶や樽は、今では珍しいものになっていますが、「箍屋」という商売は今もあるのではないでしょうか。
また、「緩んだ規律や心持ちを引き締める」ことを「箍を締める」と言いますが、大事なことです。
「雪駄直し」「下駄直し」
江戸の町では雪駄や草履、下駄なども修理して履いていました。修理していたのが「雪駄直し」や「下駄直し」の職人です。「雪駄直し」は、鼻緒のすげ替え、裏革の剥がれや踵の打ち替えなどを行っていました。裏革まで減ってしまうと雪駄や草履がだめになってしまうのです。減ってきた踵の部分を替えてもらえば再び快適に履くことができました。
同じ履物でも下駄は、「雪駄直し」とは別の「下駄直し」職人によって行われていました。下駄の歯はすり減ると差し替えます。また、鼻緒もすげ替えをしていました。
この他にも江戸の修理屋は多種多様。切れ味が悪くなった包丁などの刃物を研ぐ「研ぎ屋」、錠前が壊れた時に修理を行う「錠前直し」、算盤の修理、交換を行う「算盤直し」、曇った鏡を磨いて、水銀などを塗って修理する「鏡磨き」、その他にも、「提灯張り替え」「印肉の詰め替え」「炬燵の櫓直し」「眼鏡の仕替え」石臼の目立て」「羅苧(らお)屋」(煙管直し)など、日常生活で使われるありとあらゆる物の修理屋がありました。
壊れてもそれぞれに修理する職人がいた江戸では、物は直して使うということが当たり前のことだったのです。
8月の旬
マイワシ(真鰯)
薬剤師 橋本紀代子
イワシの名前の由来は、鮮度が落ちやすく「弱し」だから、またはたくさんとれて「卑し」いからなど、諸説あります。
マイワシは体側部に黒い斑点が連なっているのが特徴です。
春から夏には群れが北上して沿岸に近づき、秋には脂がのった「下りイワシ」が南下します。
かつては日本の総漁獲量の3割を占めていましたが、近年は不漁が続いています。
マイワシにはカルシウムと、その吸収を助けるビタミンDが非常に多く、神経を修復する作用があるビタミンB12や、抗酸化作用をもつ微量元素のセレンも含まれています。
血合い肉(筋肉のうち暗赤色の部分)はマイワシの全肉の2割近くあり、EPA、DHAなどオメガ3系の必須脂肪酸や、鉄分が豊富に含まれます。脂肪は酸化によって臭みに変わるので、鮮度が大事です。
イワシは昔から虚弱体質を改善する、筋肉や骨を強くするといわれています。
おいしい食べ方
甘辛煮は、頭と内臓を除いて流水で洗い、ぶつ切りにします。ざるにのせ、熱湯をかけて臭みをとります。しょうゆ、酒、みりんを沸騰させ、そこにイワシと千切りショウガ、または臭み取り効果のある梅干しや長ネギを入れて15分煮ます。
さんが焼きは房総半島(千葉県)の伝統料理です。イワシを手開きして骨と皮を除いた身と、みそとみじん切りにした長ネギやおろしショウガを合わせて、なめらかになるまで包丁でたたきます。食べやすい大きさに形を整えて、油でこんがりと焼いたら、両面に青ジソをのせて余熱でなじませます。イワシのつみれ汁も人気です。
酢みそあえは開いた身に塩を振って10分おき、水洗い後、酢に10分漬け、皮をはいだら食べやすい大きさに切り、小口切りした長ネギと酢みそであえます。
【「食べもの通信」8月号より転載】
6月の旬
アユ(鮎)
薬剤師 橋本紀代子
日本で最も親しまれている川魚で、「川魚の王」「清流の女王」とよばれます。アユ釣りが解禁になるのは主に6~7月。この日を心待ちにする釣り人の姿が、目に浮かぶようです。アユといえば炉端の炭火で焼くにおいが漂ってくる気がするのは、父の思い出だからでしょうか。
アユは形が美しく、「香魚」ともよばれ、スイカに例えられる爽やかな香りがあります。
冬の間、海で動物性のプランクトンを食べ、春に河口付近に集まるまだ小さなアユを稚鮎といいます。春の若鮎は河口から川をさかのぼり、夏に川底の石に付く川苔を食べて大きくなり、秋に河口で産卵します。1年で一生を終えるので、昔の記録には「年魚」と書かれています。
北海道から九州、朝鮮半島、ベトナムなど広域に分布しています。日本で漁獲量が多いのは、神奈川県や茨城県、栃木県など。養殖も盛んで、愛知県が生産量トップです。養殖アユは大きく、身がやわらかいのが特徴です。
アユはたんぱく質、ビタミンA、ビタミンB12、ビタミンD、鉄分も豊富です。老化防止のビタミンEは、養殖アユのほうが天然アユの約4倍も多く含まれています。
漢方では病後の体力回復に良いとされています。
おいしい食べ方
アユは塩焼きに始まり、塩焼きに終わるといわれます。たっぷり塩を振り、ひれには化粧塩*をして、遠火の強火で焼きます。
白焼きしてから田楽みそを塗ったものが魚田です。
「うるか」はアユの塩辛のことで、内臓だけの塩辛を「渋うるか」、卵巣の塩辛を「子うるか」といい、お酒のお供です。
そぎ切りなどにして氷水で締める洗いには、シソの葉、穂ジソ、ショウガを添えて。
ムニエルは内臓をとらずに塩・コショウをして、小麦粉を付けてバターで焼きます。
* 指でひれをつまむように塩を付ける
【「食べもの通信」6月号より転載】
4月の旬
薬剤師 橋本紀代子
コリコリの食感と磯の香りが特徴です。殻には5本前後の筋と、管状の突起(つの)があります。漢字では「栄螺」。螺は巻貝の総称で、栄が「サザエ」になったなど諸説あります。
つのの有無は育った海の波の荒さに関係するとされ、波の静かな内湾などでは「つのなしサザエ」も見られます。
クルクル回転させて身を取り出すと、最後に生殖巣がテテきます。緑色だと雌で苦みが強く、クリーム色だと雄で苦みはわずかです。
北海道から九州にかけて広く分布しています。漁獲量が多いのは長崎県、山口県などです。
産卵前の3~8月が食べごろ。
たんぱく質が多く、脂質は少なく、ビタミン、ミネラルもバランス良く含んでいます。うま味成分「コハク酸」は、アワビの2倍含まれています。
β-カロテンやビタミンE、ミネラルのカリウムや亜鉛なども豊富です。血圧を下げ、動脈硬化を予防するタウリンの含有量がとても多いのも特長です。
漢方では腎の働きを良くし、神経痛、虚弱体質を改善。髪の毛の成長にも良いとされます。
おいしい食べ方
サザエといえばつぼ焼きです。口を上にして網にのせ、中火以下で焼きます。ふたから水分が吹き上げてきたら1分弱待ち、酒としょうゆを同量混ぜて口から注ぎ、もう一度吹き上がったら、2分ほどで出来上がり。渦巻き状の砂袋、ふた近くの赤い口、ハカマといわれる部位は苦いので、取り除くのが無難です。
パセリ、ニンニク、コショウを効かせたエスカルゴバターをのせて、オーブンで焼いても美味。
刺身は、ふたと殻の間にナイフを入れて上部を取り出し、殻に指を入れて反時計回りに回して、下部を取り出します。
炊き込みご飯、ブルスケッタ、バジルバターパスタ、細かく切りかき揚げにするのもおすすめ。
【「食べもの通信」4月号より転載】
3月の旬
ハマグリ
薬剤師 橋本紀代子
身が軟らかく、味は濃厚。古くから縁起物とされ、結婚式やひな祭りに欠かせません。
浜に生息し、クリ(栗)の形なので「ハマグリ」とよばれます。北海道南部以南、朝鮮半島、中国、台湾などに広く分布しています。浅瀬に生息するものは別名「ホンハマ」とよばれますが、干拓や護岸工事、水質汚染で激減しています。
現在は国内流通のおよそ9割が中国産のシナハマグリ。国産の半分以上は茨城県から千葉県の太平洋沿岸でとれる外洋性のチョウセンハマグリ(汀線蛤。日本の在来種)です。
産卵期に向けて栄養を蓄える冬から春の時期が旬です。
たんぱく質が豊富です。うま味成分はグリシンやグルタミン酸などのアミノ酸類、グリコーゲン、コハク酸などです。
鉄、カルシウム、亜鉛、マグネシウムなどのミネラルも豊富。血中の余分なコレステロールを抑え、肝機能を高めるタウリン、ビタミンB群も多く含まれます。
漢方では貝殻を文蛤(ぶんごう)といい、喉の渇き、寝汗、二日酔いに良いとされています。
おいしい食べ方
砂抜きは平らで深めの容器にハマグリを並べ、3%の塩水を殻がかぶる程度に入れて、暗い場所に6時間ほど置きます。
焼きハマグリにするときは、合わせ目の突起を包丁で削ると、口が開かずに汁もこぼれません。2~3分蒸し煮し、身のついているほうにしょうゆをかけ、オーブントースターで1分焼きます。
ひな祭りにはナバナや塩漬けのサクラの花をあしらったすまし汁にすると、華やかな一品に。
酒蒸しはフライパンにハマグリを並べ、酒100mlと水50mlを入れ、ふたをして強火に。殻が開いたらふたをとり弱火で3分煮ます。バター、塩・コショウをしてふたをし、1分蒸し煮にします。
ブイヤベース、クラムチャウダー、パエリアなどにしても。
【「食べもの通信」3月号より転載】