2024年7月23日火曜日

江戸庶民の夏の過ごし方

 江戸庶民の夏の過ごし方


近年の猛暑に耐えかねている人も多いかと思います。地球規模の温暖化は、自然環境や人の暮らしに大きな被害をもたらし、最近では気候危機とまで言われています。

それでは数百年前の江戸の夏はどうだったのか? 調べてみると、夏の平均気温は現代より2~3度低かったようですが、それでもやはり夏は夏です。エアコンや扇風機などない中で、江戸の庶民は様々な工夫を凝らして暑さを凌いでいました。

夏の定番ファッション浴衣

浴衣は平安時代には沐浴する際に着用するものでしたが、

木綿と入浴の習慣が普及した江戸では、風呂上がりに羽織るものになりました。また、湯屋の帰りや夕涼み、家でくつろぐ際にも着られました。肌触りがよく吸水性も高い木綿の浴衣は、夏を涼しく過ごすために重宝されました。
夏のイベントグッズ団扇
 中国から日本に伝わった団扇は、江戸に入って庶民に普及し、炊事の火起こしに使うなどの実用品ともなりました。団扇を扇風機の羽のようにした「手動扇風機(手回し団扇)」(挿絵)も考案されましたが、今の扇風機の原型です。

夏に欠かせないアイテム

江戸には運河が張り巡らされており、至る所で蚊が発生しました。蚊は伝染病も媒介するため、蚊帳を売り歩く振売が町中を流していました。 

蚊帳を持っていない人たちは、蚊が嫌う成分を持つ植物をいぶすことでその煙を使って追い払っていました。「蚊遣り」と呼ばれる方法で、「蚊火」「蚊いぶし」「蚊くすべ」などとも呼ばれました。木片や薬草のような植物を燃やして蚊を追い払いましたが、それが今の蚊取り線香に進化しました。

すだれは奈良時代からありましたが、部屋の間仕切りや日よけ、目隠しなどの目的で利用されました。江戸前期には職人もいて庶民にも広まりました。すだれと似たものによしずがありますが、すだれが一般的に吊るして使うのに対し、よしずはすだれよりもひと回り大きいので主に立てかけて使いました。

耳や目で涼を求める


現代のようなガラスの風鈴(江戸風鈴)が登場したのは江戸時代のことです。江戸の庶民は涼しげな音色で耳から涼を感じました。天秤棒に風鈴をぶら下げた風鈴売りが売り歩きました。

天秤棒に提げたたらいに金魚を入れ、甲高い独特な声で売り歩く「金魚売り」も夏の風物詩でした。また、「釣りしのぶ」「蛍売り」なども夏の訪れを告げるものでした。

「両国の川開き」として行われた花火も夏の風物詩で、今の隅田川花火大会に引き継がれています。江戸の庶民は耳や目で涼を求めたのです。


夏らしい食べ物・飲み物

江戸の夏に欠かせないのは鰻です。海水が混じる隅田川や深川でとれる鰻は格別とされ、江戸っ子は「鰻は江戸前に限る」と自慢しました。
 心太(ところてん)も夏を知らせる庶民の味で、「ところてんやァ、てんやァ」という独特の呼び声で町を売り歩きました。また、冷水(ひやみず)売りは、「ひゃっこい、ひゃっこい」と、冷たい湧き水に砂糖や白玉を入れて売り歩きました。甘酒は冬の飲み物のように思われがちですが、江戸時代には、栄養を補給し、夏バテを防ぐためとよく飲まれました。

無理をしないで休むこと

江戸庶民の夏の過ごし方について縷々述べましたが、つまるところ、一番暑い真昼間には働かないで、涼しい朝と夕方に働き、日没までには夕食を終えて夕涼みするという人が多かったようです。無理をしないで休み、暑い夏を、五感を働かせて涼しく過ごす、そんな江戸っ子の知恵に、現代人は学ぶところが多いのではないでしょうか。

2024年4月25日木曜日

5月の旬   6月の旬

                6月の旬

                   ホタテガイ

  薬剤師 橋本紀代子 

片側の貝殻を帆のように立てて進むと想像して「帆立」と名づけられました。実際は貝殻を勢いよく開閉して水を噴射し、12mずつ進むそうです。

 扇形の二枚貝で、2枚の殻の色や形が異なります。殻の表面には放射状の筋と年輪様の横の線があり、何年ものかがわかります。

 水深2030mの砂底に生息し、植物プランクトン等を食べて成長します。孵化後45年で15㎝ほどの大きさに。

 オスの生殖巣はクリーム色、メスはオレンジ色です。

 全国漁獲量の9割を北海道と青森県で占めています。漁獲量1位は、天然ものが北海道、養殖ものは青森県です。

 低脂肪でたんぱく質が多く、グルタミン酸、アラニン、グリシンなどのアミノ酸類がうま味や甘味のもとです。

 貝柱には多糖類のグリコーゲンが豊富で、6~8月にとくに多くなります。タウリンや鉄、亜鉛なども含まれています。

 漢方では高血圧症の予防、滋養強壮に良いとされています。

 

おいしい食べ方

 

 赤紫色で平らな方の殻から貝柱と殻の間にナイフなどを差し込み、貝柱を外します。殻が開いたら反対側を剥がします。

 黒いウロとよばれる部分は、貝毒や重金属が蓄積されるところなので除きます。ただし、ベビーホタテとよばれる稚貝のウロは除かなくても大丈夫です。

 貝柱の刺身はワサビじょうゆでいただきます。

 ヒモや生殖巣はサッと熱湯にくぐらせてすぐに冷水に落とし、水気を拭き取り刺身に添えます。

 貝柱、ヒモ、アボカド、薄皮を除いた柑橘類を混ぜてサラダに。

 酢のもの、バター炒め、揚げもの、煮ものにしても。

 乾燥させた貝柱は高級食材で、もどしてスープ、炒めもの、シュウマイの具などにします。

 貝殻焼きには、バターしょうゆが合います。

   【「食べもの通信」6月号より転載】




          


               5月の旬

                  アワビ

               薬剤師 橋本紀代子

 お祝いなどの贈答品の包装に使う熨斗。もともとはノシアワビを用いていました。別名を「打ちアワビ」といい、戦国武将が打ち勝つように縁起をかついで食したといわれます。

 生で食べるとコリコリした歯ごたえがあり、加熱すると特有のうま味が出てきます。

 2022年、クロアワビ、メガイアワビ、マダカアワビの3種類が国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定されました。密漁、乱獲、気候変動などで激減しているためで、早急な対策が待たれます。

 天然アワビの漁獲量は1970年をピークに現在は8分の1に。

 北海道や三陸海岸でとれるエゾアワビなどは、養殖もおこなわれています。

 漁獲量が多いのは、岩手、千葉、三重などの各県です。

 うま味のもとはスタミナがつくといわれるアルギニン、タウリン、グリシン、ベタイン、グルタミン酸などです。目の健康に良いビタミンAやビタミンB1、B2、カルシウムも含まれます。

 民間療法では、煮て食べると産後や手術後の体力回復に効果があるとされています。

 漢方ではアワビの殻を石決明といい、粉末にして目の病気、膀胱炎、血尿などに用いる漢方薬に配合し、煎じて飲みます。 

おいしい食べ方

  身も殻もたわしでこすり、水洗いして汚れを落とします。

 刺身はスプーンなどで貝柱をはがして身を取り出し、肝とくちばしを取り除き薄く切ります。肝は砂袋を除いて5分ほどゆで、刺身に添えます。

 酒蒸しは酒大さじ1/2を振りかけて蒸すだけです。

 もち米にアワビや山芋を入れたかゆは糖尿病の養生食。

 シイタケ、セロリを加えたスープは美味。大根おろし、しょうゆ、みりんで甘辛く煮付けても。

 アワビとホウレンソウの甘酢あんかけも人気の一品です。

   【「食べもの通信」5月号より転載】

 今月の旬

2024年4月2日火曜日

4月の旬

                 4月の旬

                    アサリ

    
        薬剤師 橋本紀代子

  ゴールデンウイークの潮干狩りといえばアサリです。「漁る」「浅い+砂利」などから名付けられたといわれます。

 貝殻の表面は縦横にスジがあり、模様も多様です。身がプリプリしていて、うま味があります。

 旬は春から6月にかけて。関東以南では秋にも産卵するため910月も旬です。

 日本のほか、中国、ロシア、朝鮮半島、インドシナ半島、フィリピンなどに広く分布しています。

 1980年代には13万トン余りあった漁獲量は5000トン以下に減少。激減の原因は乱獲、水質汚染、温暖化の影響のほか、さまざまな要因があるようです。

 漁獲量は愛知県が5割、北海道が3割を占めます。国内流通量の9割は中国や韓国などからの輸入です。

 うま味のもとはコハク酸のほか、多様なアミノ酸類などです。鉄や亜鉛などのミネラル分も豊富です。また、造血作用のあるビタミンB12の含有量が多く、動脈硬化や高血圧を予防するタウリンも多く含まれます。

 漢方ではイライラを鎮め、喉の渇きを潤すとされています。

おいしい食べ方

 砂抜きは、底が平らな容器にアサリを並べ、ひたひたの塩水(1に対し30gの塩)に浸けて、暗くして数時間おきます。使う1時間ほど前にざるにあげて水でよく洗い、塩水の飛び散りを防ぐため一回り大きなボウルにざるごと入れます。

 殻のまま水と鍋に入れて火にかけ、沸騰して貝が開いたらOK。みそを入れればアサリのみそ汁になります。すまし汁、酒蒸し、つくだ煮、パスタ、クラムチャウダーなどにもおすすめです。

 深川飯(丼)は、もともとはアサリのみそ汁のぶっかけご飯で、漁師の朝ごはんでした。いまでは、アサリ、厚揚げ、長ネギをしょうゆとみりんで煮込み、ご飯にかけたものや炊き込みご飯にすることが多くなっています。

   【「食べもの通信」4月号より転載】

 

2024年2月29日木曜日

3月の旬

                 3月の旬

                    サワラ(鰆)


               薬剤師 橋本紀代子 

 漢字では魚へんに春と書きます。細長いという意味の「狭腹」から、サワラとよばれるようになりました。体長は1mほどになるものもあります。

 味は淡泊で身は軟らかく、独特のうま味があります。

 成長とともに名前が変わる出世魚で、関東では体長50㎝くらいまでを「サゴシ(狭腰)」、50㎝以上をサワラとよびます。関西では「サゴチ」「ヤナギ」「サワラ」の順に大きくなります。

 回遊魚なので、通年出回ります。俳句では春の季語。関西では「春告げ魚」としてお祝いの膳に欠かせません。関東では冬の「寒鰆」が、脂が乗っていておいしいと人気です。漁獲量が多いのは、福井県、京都府、石川県などの日本海側です。

 筋肉、内臓、爪、髪などを作るたんぱく質が多く含まれます。また、生活習慣病予防に役立つオメガ3系の必須脂肪酸であるDHAEPAも豊富です。ビタミンB2、ビタミンD、味覚を正常に保つ亜鉛を含みます。カリウムの量がとくに多いのも特長です。

 漢方では、元気が出て冷え症にも効果があるとされています。 

おいしい食べ方

 新鮮なものは刺身やたたきにします。

 「岡山ばらずし」は瀬戸内海の魚介と旬の野菜を彩り良く盛り付けたお寿司で、サワラの酢締め(酢〆)が必須です。

 塩焼きは、少し塩を振って時間をおいてから焼き、しょうゆをたらすとおいしさが増します。

 しょうゆ漬けは、ポリ袋にサワラ3切れ、酒・しょうゆ各大さじ2を入れて半日浸けてからグリルで焼きます。また、西京みそ(白みそ)漬けも絶品です。

 天ぷら、ムニエル、フライなど、幅広い料理に向いています。

 真子(卵)の煮付けは各地の郷土料理になっています。だし汁、酒、しょうゆ、みりん、薄切りショウガに落としぶたをして20分ほど煮ます。白子はみそ汁に。

   【「食べもの通信」3月号より転載】

 

2023年12月12日火曜日

11月の旬

               11月の旬

       クルマエビ

             



            薬剤師 橋本紀代子

2023年10月2日月曜日

10月の旬

                 10月の旬

               スルメイカ

             薬剤師 橋本紀代子 

 スルメイカの干物をストーブで炙り、おやつにしていた子どものころ。「スルメ」は駄菓子屋でも買える庶民の味でした。

 日本のイカの総漁獲量1位はスルメイカとはいえ、深刻な不漁が続いています。

 スルメイカは、東シナ海からオホーツク海まで海流に乗って回遊します。地域によってとれる時期が異なるので、通年出回りますが、初夏から秋口に多く収穫されます。集魚灯が水平線に連なる漁り火は風物詩です。

 脂質の含有量が低く、低カロリーという特長があります。

 うまみのもとはグリシン、アラニン、プロリンなどのアミノ酸類です。スルメの粉にも多く含まれるタウリンはアミノ酸の一種で、コレステロールの沈着を抑えて動脈硬化を予防します。

 漢方では、イカの身は血を養い生理不順にも良いとされます。手術後の体力の衰えや耳鳴りに効果があり、腰や脚に力をつけるとされています。

おいしい食べ方

 とれたては身が透き通り、コリコリとした食感です。刺身や細切りの「イカそうめん」にして、ショウガじょうゆでいただきます。生食する場合は目視で寄生虫を必ず除きます。アニサキスはマイナス20度以下で24時間以上冷凍すれば、安全に食べられます。

 サッとゆでて、野菜と一緒に酢のものやサラダに。

 一夜干しは網で炙ってショウガじょうゆやマヨネーズで。七味トウガラシを振りかけると、一段とおいしくなります。イカリングなどの揚げものにも。

 ゴーヤ入りのチヂミやお好み焼きにはゲソが合います。

 スルメイカのワタは大きいので、ラップに包み冷凍します。刺身のように切ってワサビじょうゆで食べます。ワタに塩を振って水分を抜けば、塩辛に。

 スルメとコンブを細切りにし、たれに漬けた松前漬けも美味。

   【「食べもの通信」10月号より転載】