2024年10月2日水曜日

                 10月の旬

                 イトヨリ(糸撚・糸縒)

                   薬剤師 橋本紀代子

ピンクとブルーの地色に数本の黄色い帯状の線が入っています。尾ビレの上葉に、黄色い糸が伸びているような部分があり、泳ぐと糸を撚っているように見えるのが、名前の由来です。

 標準和名はイトヨリダイ。「金糸魚」「金線魚」のほか、各地に呼び名があります。色がマダイのように艶やかなので「タイ」の名が付いていますが、スズキの仲間です。秋から冬が旬です。

 体長は4050㎝ほど。水深40250mの砂泥底でエビ、カニ、小魚など小動物を捕食して生息します。

 本州中部以南から東シナ海、フィリピン、オーストラリア北西岸にまで分布しています。

 西日本では祝いの膳などに用いられますが、関東以北ではあまり見かけません。

 味は淡泊で、脂肪分が少なく、

高たんぱく質。うま味のもとのアミノ酸類が豊富です。

 ビタミンD、ビタミンEのほか、カルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラル類を含みます。

 漢方では体を温め、老化防止、疲労回復、免疫力アップに役立つとされています。

おいしい食べ方

 皮と身の間に風味があるので、湯霜造りにします。ウロコを取ってから三枚におろし、腹骨をそぎ落として小骨を抜きます。皮を上にして網に載せ、皮の上からさらしをかぶせ、沸騰している熱湯を皮目全体にかけます。すぐに氷水で冷やしたら水気を拭き取り、縦に2カ所ほど切れ目を入れます。崩れやすいので、皮を下にして刺身にします。

 塩焼きは振り塩をして余分な水分を拭き取り、改めて塩を振ってグリルで皮目の色がきれいに残る程度に焼きます。

 椀種にもよく用います。塩水にサッと浸してから熱湯にくぐらせると汁が濁らず、きれいに仕上がります。中華風蒸しもの、兜煮、アラ汁、ムニエル、フライや天ぷらなどの揚げものにも。

   【「食べもの通信」10月号より転載】

 

2024年9月2日月曜日

9月の旬

                 9月の旬

              ムラサキイガイ

               薬剤師 橋本紀代子

 ムール貝ともよばれます。日本の在来種であるイガイのほか、たくさんのイガイ類は食用にされます。現在流通しているのは、ほとんどがムラサキイガイです。  フランス料理のムール貝は、ヨーロッパイガイという別種です。  ムラサキイガイは地中海原産ですが、貨物船の船底やバラスト水に紛れて、昭和初期に日本に運ばれてきました。  貝殻は、殻頂が尖った三角形で、表面は紫がかった黒です。足糸(ヒゲ)で海藻や岩に張り付いて成長します。  麻痺、下痢、嘔吐、腹痛などの症状が出る貝毒のリスクがあるので、定期的な水質の検査がおこなわれています。  国内の産地は宮城県、広島県などです。  ロイシン、リジン、イソロイシンなどの必須アミノ酸やグルタミン酸などのさまざまなアミノ酸類が、濃厚なうま味のもとです。  赤血球づくりをサポートし、貧血の予防や改善に役立つ鉄分、ビタミンB12が多いのも特長です。  

おいしい食べ方  

下処理は、たわしで殻の表面に付いた海藻やゴミなどを落とし、足糸を引き抜きます。  酒蒸しはフライパンなどにオリーブ油を入れて低温でニンニクを炒め、貝、酒、塩、コショウを加え、蓋をして中火で蒸します。酒をワインに代えれば、ワイン蒸しになります。  ムラサキイガイ、アサリやタラなど白身魚とズッキーニ、トマトなどの野菜を、オリーブ油とハーブ塩で蒸し煮すれば、イタリア料理「アクアパッツァ」に。  殻を剥き、バジル、ニンニク、パセリをみじん切りにし、粉チーズ、オリーブ油、香草パン粉をたっぷりかけて200度のオーブンで焼くと、貝の甘味とサクッとした食感が味わえます。  鳥取県の郷土料理「いがい飯」は、ゆでたイガイの炊き込みご飯です。ムラサキイガイでも代用できます。

   【「食べもの通信」9月号より転載】


2024年7月23日火曜日

8月の旬

                8月の旬

                 マアジ

            

            薬剤師  橋本紀代子

由来は、「味」が良いからアジ。日本では「アジ」といえばマアジを指し、よく食べられています。

 体長は30㎝前後。釣りたては虹色に輝いています。「ぜいご」は尾の付け根から延びている、硬くてギザギザのうろこです。

 青魚ですがくせが少なく、味はさっぱりしています。

 本来は回遊性ですが、内湾にすみついたものを「瀬付きアジ」といいます。脂ののりが良く、やや黄色みがかっていることから「金アジ」ともよばれます。「ごんあじ」「ときあじ」「関あじ」などはブランド化された名前です。

 漁獲量が多いのは長崎県46%、島根県10%(2021年)。

 たんぱく質、DHAEPAなどのオメガ3系の不飽和脂肪酸が豊富です。ビタミンB群、カルシウムなどのミネラル類がバランスよく含まれています。

 うま味のもとは、アルギニン、アラニン、グルタミン酸などのアミノ酸類です。

 漢方では体を温め、血流を良くする食材とされています。 

おいしい食べ方 

 三枚におろし、腹骨と皮を取り、刺身に。薬味にはショウガ、ワサビ、青ジソ、穂ジソ、ミョウガ、スダチなどをお好みで。

 「なめろう」はみじん切りにしたアジ、青ジソ、ショウガにみそ・しょうゆ・ゴマ油などを合わせてたたいたものです。

 塩焼きは内臓とぜいごを取り、真ん中に切れ目を入れて塩を振ります。ヒレに塩を付けたあとヒレをアルミホイルでくるみ、グリルでこんがり焼きます。

 南蛮漬けは、漬けだれ(酢・しょうゆ・酒・みりんにトウガラシとタマネギの薄切りを入れて5分ほど煮る)に、唐揚げにしたアジを入れます。

 骨せんべいは塩を振り、水気を切ってから片栗粉を付けて、1608分、180でカラッとするまで二度揚げします。

 漬け丼、酢締め、干物、煮もの、フライなどにも向いています。

   【「食べもの通信」8月号より転載】

 

江戸庶民の夏の過ごし方

 江戸庶民の夏の過ごし方


近年の猛暑に耐えかねている人も多いかと思います。地球規模の温暖化は、自然環境や人の暮らしに大きな被害をもたらし、最近では気候危機とまで言われています。

それでは数百年前の江戸の夏はどうだったのか? 調べてみると、夏の平均気温は現代より2~3度低かったようですが、それでもやはり夏は夏です。エアコンや扇風機などない中で、江戸の庶民は様々な工夫を凝らして暑さを凌いでいました。

夏の定番ファッション浴衣

浴衣は平安時代には沐浴する際に着用するものでしたが、

木綿と入浴の習慣が普及した江戸では、風呂上がりに羽織るものになりました。また、湯屋の帰りや夕涼み、家でくつろぐ際にも着られました。肌触りがよく吸水性も高い木綿の浴衣は、夏を涼しく過ごすために重宝されました。
夏のイベントグッズ団扇
 中国から日本に伝わった団扇は、江戸に入って庶民に普及し、炊事の火起こしに使うなどの実用品ともなりました。団扇を扇風機の羽のようにした「手動扇風機(手回し団扇)」(挿絵)も考案されましたが、今の扇風機の原型です。

夏に欠かせないアイテム

江戸には運河が張り巡らされており、至る所で蚊が発生しました。蚊は伝染病も媒介するため、蚊帳を売り歩く振売が町中を流していました。 

蚊帳を持っていない人たちは、蚊が嫌う成分を持つ植物をいぶすことでその煙を使って追い払っていました。「蚊遣り」と呼ばれる方法で、「蚊火」「蚊いぶし」「蚊くすべ」などとも呼ばれました。木片や薬草のような植物を燃やして蚊を追い払いましたが、それが今の蚊取り線香に進化しました。

すだれは奈良時代からありましたが、部屋の間仕切りや日よけ、目隠しなどの目的で利用されました。江戸前期には職人もいて庶民にも広まりました。すだれと似たものによしずがありますが、すだれが一般的に吊るして使うのに対し、よしずはすだれよりもひと回り大きいので主に立てかけて使いました。

耳や目で涼を求める


現代のようなガラスの風鈴(江戸風鈴)が登場したのは江戸時代のことです。江戸の庶民は涼しげな音色で耳から涼を感じました。天秤棒に風鈴をぶら下げた風鈴売りが売り歩きました。

天秤棒に提げたたらいに金魚を入れ、甲高い独特な声で売り歩く「金魚売り」も夏の風物詩でした。また、「釣りしのぶ」「蛍売り」なども夏の訪れを告げるものでした。

「両国の川開き」として行われた花火も夏の風物詩で、今の隅田川花火大会に引き継がれています。江戸の庶民は耳や目で涼を求めたのです。


夏らしい食べ物・飲み物

江戸の夏に欠かせないのは鰻です。海水が混じる隅田川や深川でとれる鰻は格別とされ、江戸っ子は「鰻は江戸前に限る」と自慢しました。
 心太(ところてん)も夏を知らせる庶民の味で、「ところてんやァ、てんやァ」という独特の呼び声で町を売り歩きました。また、冷水(ひやみず)売りは、「ひゃっこい、ひゃっこい」と、冷たい湧き水に砂糖や白玉を入れて売り歩きました。甘酒は冬の飲み物のように思われがちですが、江戸時代には、栄養を補給し、夏バテを防ぐためとよく飲まれました。

無理をしないで休むこと

江戸庶民の夏の過ごし方について縷々述べましたが、つまるところ、一番暑い真昼間には働かないで、涼しい朝と夕方に働き、日没までには夕食を終えて夕涼みするという人が多かったようです。無理をしないで休み、暑い夏を、五感を働かせて涼しく過ごす、そんな江戸っ子の知恵に、現代人は学ぶところが多いのではないでしょうか。

2024年4月25日木曜日

5月の旬   6月の旬

                6月の旬

                   ホタテガイ

  薬剤師 橋本紀代子 

片側の貝殻を帆のように立てて進むと想像して「帆立」と名づけられました。実際は貝殻を勢いよく開閉して水を噴射し、12mずつ進むそうです。

 扇形の二枚貝で、2枚の殻の色や形が異なります。殻の表面には放射状の筋と年輪様の横の線があり、何年ものかがわかります。

 水深2030mの砂底に生息し、植物プランクトン等を食べて成長します。孵化後45年で15㎝ほどの大きさに。

 オスの生殖巣はクリーム色、メスはオレンジ色です。

 全国漁獲量の9割を北海道と青森県で占めています。漁獲量1位は、天然ものが北海道、養殖ものは青森県です。

 低脂肪でたんぱく質が多く、グルタミン酸、アラニン、グリシンなどのアミノ酸類がうま味や甘味のもとです。

 貝柱には多糖類のグリコーゲンが豊富で、6~8月にとくに多くなります。タウリンや鉄、亜鉛なども含まれています。

 漢方では高血圧症の予防、滋養強壮に良いとされています。

 

おいしい食べ方

 

 赤紫色で平らな方の殻から貝柱と殻の間にナイフなどを差し込み、貝柱を外します。殻が開いたら反対側を剥がします。

 黒いウロとよばれる部分は、貝毒や重金属が蓄積されるところなので除きます。ただし、ベビーホタテとよばれる稚貝のウロは除かなくても大丈夫です。

 貝柱の刺身はワサビじょうゆでいただきます。

 ヒモや生殖巣はサッと熱湯にくぐらせてすぐに冷水に落とし、水気を拭き取り刺身に添えます。

 貝柱、ヒモ、アボカド、薄皮を除いた柑橘類を混ぜてサラダに。

 酢のもの、バター炒め、揚げもの、煮ものにしても。

 乾燥させた貝柱は高級食材で、もどしてスープ、炒めもの、シュウマイの具などにします。

 貝殻焼きには、バターしょうゆが合います。

   【「食べもの通信」6月号より転載】




          


               5月の旬

                  アワビ

               薬剤師 橋本紀代子

 お祝いなどの贈答品の包装に使う熨斗。もともとはノシアワビを用いていました。別名を「打ちアワビ」といい、戦国武将が打ち勝つように縁起をかついで食したといわれます。

 生で食べるとコリコリした歯ごたえがあり、加熱すると特有のうま味が出てきます。

 2022年、クロアワビ、メガイアワビ、マダカアワビの3種類が国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定されました。密漁、乱獲、気候変動などで激減しているためで、早急な対策が待たれます。

 天然アワビの漁獲量は1970年をピークに現在は8分の1に。

 北海道や三陸海岸でとれるエゾアワビなどは、養殖もおこなわれています。

 漁獲量が多いのは、岩手、千葉、三重などの各県です。

 うま味のもとはスタミナがつくといわれるアルギニン、タウリン、グリシン、ベタイン、グルタミン酸などです。目の健康に良いビタミンAやビタミンB1、B2、カルシウムも含まれます。

 民間療法では、煮て食べると産後や手術後の体力回復に効果があるとされています。

 漢方ではアワビの殻を石決明といい、粉末にして目の病気、膀胱炎、血尿などに用いる漢方薬に配合し、煎じて飲みます。 

おいしい食べ方

  身も殻もたわしでこすり、水洗いして汚れを落とします。

 刺身はスプーンなどで貝柱をはがして身を取り出し、肝とくちばしを取り除き薄く切ります。肝は砂袋を除いて5分ほどゆで、刺身に添えます。

 酒蒸しは酒大さじ1/2を振りかけて蒸すだけです。

 もち米にアワビや山芋を入れたかゆは糖尿病の養生食。

 シイタケ、セロリを加えたスープは美味。大根おろし、しょうゆ、みりんで甘辛く煮付けても。

 アワビとホウレンソウの甘酢あんかけも人気の一品です。

   【「食べもの通信」5月号より転載】

 今月の旬

2024年4月2日火曜日

4月の旬

                 4月の旬

                    アサリ

    
        薬剤師 橋本紀代子

  ゴールデンウイークの潮干狩りといえばアサリです。「漁る」「浅い+砂利」などから名付けられたといわれます。

 貝殻の表面は縦横にスジがあり、模様も多様です。身がプリプリしていて、うま味があります。

 旬は春から6月にかけて。関東以南では秋にも産卵するため910月も旬です。

 日本のほか、中国、ロシア、朝鮮半島、インドシナ半島、フィリピンなどに広く分布しています。

 1980年代には13万トン余りあった漁獲量は5000トン以下に減少。激減の原因は乱獲、水質汚染、温暖化の影響のほか、さまざまな要因があるようです。

 漁獲量は愛知県が5割、北海道が3割を占めます。国内流通量の9割は中国や韓国などからの輸入です。

 うま味のもとはコハク酸のほか、多様なアミノ酸類などです。鉄や亜鉛などのミネラル分も豊富です。また、造血作用のあるビタミンB12の含有量が多く、動脈硬化や高血圧を予防するタウリンも多く含まれます。

 漢方ではイライラを鎮め、喉の渇きを潤すとされています。

おいしい食べ方

 砂抜きは、底が平らな容器にアサリを並べ、ひたひたの塩水(1に対し30gの塩)に浸けて、暗くして数時間おきます。使う1時間ほど前にざるにあげて水でよく洗い、塩水の飛び散りを防ぐため一回り大きなボウルにざるごと入れます。

 殻のまま水と鍋に入れて火にかけ、沸騰して貝が開いたらOK。みそを入れればアサリのみそ汁になります。すまし汁、酒蒸し、つくだ煮、パスタ、クラムチャウダーなどにもおすすめです。

 深川飯(丼)は、もともとはアサリのみそ汁のぶっかけご飯で、漁師の朝ごはんでした。いまでは、アサリ、厚揚げ、長ネギをしょうゆとみりんで煮込み、ご飯にかけたものや炊き込みご飯にすることが多くなっています。

   【「食べもの通信」4月号より転載】

 

2024年2月29日木曜日

3月の旬

                 3月の旬

                    サワラ(鰆)


               薬剤師 橋本紀代子 

 漢字では魚へんに春と書きます。細長いという意味の「狭腹」から、サワラとよばれるようになりました。体長は1mほどになるものもあります。

 味は淡泊で身は軟らかく、独特のうま味があります。

 成長とともに名前が変わる出世魚で、関東では体長50㎝くらいまでを「サゴシ(狭腰)」、50㎝以上をサワラとよびます。関西では「サゴチ」「ヤナギ」「サワラ」の順に大きくなります。

 回遊魚なので、通年出回ります。俳句では春の季語。関西では「春告げ魚」としてお祝いの膳に欠かせません。関東では冬の「寒鰆」が、脂が乗っていておいしいと人気です。漁獲量が多いのは、福井県、京都府、石川県などの日本海側です。

 筋肉、内臓、爪、髪などを作るたんぱく質が多く含まれます。また、生活習慣病予防に役立つオメガ3系の必須脂肪酸であるDHAEPAも豊富です。ビタミンB2、ビタミンD、味覚を正常に保つ亜鉛を含みます。カリウムの量がとくに多いのも特長です。

 漢方では、元気が出て冷え症にも効果があるとされています。 

おいしい食べ方

 新鮮なものは刺身やたたきにします。

 「岡山ばらずし」は瀬戸内海の魚介と旬の野菜を彩り良く盛り付けたお寿司で、サワラの酢締め(酢〆)が必須です。

 塩焼きは、少し塩を振って時間をおいてから焼き、しょうゆをたらすとおいしさが増します。

 しょうゆ漬けは、ポリ袋にサワラ3切れ、酒・しょうゆ各大さじ2を入れて半日浸けてからグリルで焼きます。また、西京みそ(白みそ)漬けも絶品です。

 天ぷら、ムニエル、フライなど、幅広い料理に向いています。

 真子(卵)の煮付けは各地の郷土料理になっています。だし汁、酒、しょうゆ、みりん、薄切りショウガに落としぶたをして20分ほど煮ます。白子はみそ汁に。

   【「食べもの通信」3月号より転載】