2021年12月14日火曜日

    江戸 農業にみる循環

        元都教組委員長 工藤芳弘 

江戸時代は、今のような流通が確保されていなかったため、地域を中心とした循環型の社会であった。また、自然と共生した低炭素社会であり、現代が直面している地球温暖化の問題などはなかった。つまり江戸は、自然共生の低炭素、循環型の持続可能な社会であった。

だからといって江戸時代の生活に戻ることなどできるはずはないが、自然と調和を保ちながら暮らしてきた江戸のリサイクルやエコの取り組み(考え方)は、現代にも何らかの示唆を与えているのではないだろうか。そのことを農業の面から考えてみたい。

日本人と稲作

1862年(文久2年)に三浦直重という人が、『米徳糠藁籾用方教訓童子道知辺』(こめとくぬかわらもみもちいかたきょうくんどうじのみちしるべ)という農書を著している。江戸時代の水田稲作を中心とした農村地帯の資源循環を述べた著作である。書き出しは、「そもそも米に徳があることを世間の人は一応知っているが、どれほどのものなのかをはたして知っているだろうか」で始まる。米は二千年以上にわたって日本人の生活を支えてきた食物である。日本の気候や風土がイネの栽培にとても合っており、長期保存ができたこともその理由だろう。また、江戸時代の武士の俸給が石高(米の生産量)であったことからも、日本人と米の関わりの重要さがわかる。


副産物をリサイクル

江戸時代の人々は、稲作のあとに残る米の副産物を完全にリサイクルしていた。草履や草鞋は「藁」から作られたものであるが、江戸庶民にとって、草履はサンダル、草鞋は靴であった。三浦直重もその著書で、「米の徳」=「藁」「籾殻」「糠」がいかにすぐれているか詳細に述べている。 

「糠」については、「素肌を洗う」「ものにくっついた油を洗い落とす」「ヌカ床などを作り、漬け物を作る」「紺屋で炒りヌカに糊を混ぜて染め抜きに使う」「ヌカとまぐさを混ぜて馬の飼料にする」「炒って小鳥のえさにする」「畑のこやしにする」「ヌカを袋に包んで井戸掘りの錐の穴に詰めておくと清水が沸き出す」などと記し、「籾」は、「ものを箱などに入れる時、クッション代わりに使う」「湿気取り」「道路の修理」などに使い、「藁」は、「畳」「米俵」「屋根」「草履」などに利用するとしている。

 江戸から続く米の副産物の活用法は、今に引き継がれているものもあるが、「ムシロ」「タワラ」など、今では理解できない子どもたちが多い。「縄跳び」は今でも盛んだが、この「ナワ」が藁を綯(な)って作っていたことなど想像もできないだろう。 

江戸の野菜促成栽培

 「初鰹」など、江戸では初物を珍重する贅沢文化が広がった。そこで江戸の農民は、米などの主食よりも高く売れる初物づくり、とりわけ野菜の促成栽培に力を入れ始めた。

江戸の促成栽培は、寛文年間(1661年~73年)の頃、江戸の大農業生産地であった砂村(現江東区)の松本久四郎が考案したと言われている。砂村ねぎ、大丸砂村西瓜、砂村丸茄子などに名を残している。

促成栽培の方法は、ゴミを堆積すると醗酵熱が出ることを利用したものである。江戸市中から出るゴミを集めて堆積し、その熱を利用して野菜の種を早く蒔けば収穫が早くできるというわけだ。

庶民が贅沢をすると身分制度が揺らぐとして、江戸幕府は度々、出荷日を統制する法令、促成栽培禁止の町触れを出して取り締まったというが、明治維新以後には一層盛んになった。「江戸ゴミ」という都市廃棄物を農業生産に活用(リサイクル)したこの栽培方法は、昭和30年代まで続いていた。


                12月の旬 

                八つ頭               


                  橋本紀代子 薬剤師

 サトイモの一種で、子イモが親イモと分かれずに岩のような塊になっています。ホクホクした食感と独特の甘味が特長です。

 お正月の縁起物とされるのは、人の頭(=リーダー)になるようになど多くの説があります。

 デコボコが多くて調理が大変という短所を克服したのが「丸系八つ頭」で、2014年に埼玉県の研究所が開発しました。

 八つ頭は中国を経由し、平安時代には日本に入っていました。生産量が多いのは千葉県、埼玉県。旬は12月から3月です。

 水様性食物繊維のガラクタンやムチンには、免疫力を高める働きがあります。血圧降下作用のあるカリウムも豊富です。

 えぐ味や、肌のかゆみのもとはシュウ酸カルシウムの針状結晶やたんぱく質分解酵素など。

 漢方では、内臓の熱を取り、唾液の分泌を促し、消化を助け、慢性の便秘や下痢にも有効とされています。

おいしい食べ方と保存法

 すき間まで土を洗い落とし、食べやすい大きさに切ったら、面取りを。あく抜きの下ゆで後に、ぬめりを洗い落とします。

 煮しめは、だし汁に酒、みりん、砂糖、しょうゆを入れ、下ゆでした八つ頭を竹串が通るまで2030分煮ます。

 八つ頭の葉柄は「ずいき」「いもがら」といい、食用にします。

 生のずいきの皮をむき30分ほど水にさらし、熱湯で2分間ゆで食べやすい長さに切り、熱いうちに甘酢に漬けると赤い色が美しく出ます。乾燥させたずいきは、ぬるま湯で30分ほど戻します。5㎝ほどに切り油揚げやコンニャクと炒め煮しても美味。

 八つ頭の保存は、洗わずに新聞紙などに包み、風通しの良い冷暗所に置きます。食べやすい大きさに切ってから硬めにゆで、ぬめりを拭き取ってから保存袋に入れて、冷凍します。煮物には冷凍のまま使えます。

【「食べもの通信」12月号より転載】