2018年5月6日日曜日


   5月の旬  
                    薬剤師 橋本紀代子

 子どものころ、夏の飲みものは、冷たい井戸水で割った梅ジュースでした。青梅の季節には梅酒と梅ジュースを、梅が色付くころには梅干しを作る風景が、どこの家にもありました。今、私が旅に出るときの必携品は、梅干しと梅肉エキスです。
 梅の原産地は中国の中〜南部の山岳地帯。日本では奈良・平安時代は観賞用で、果樹として本格的に栽培されたのは江戸時代からです。梅干しは、旅人が流行性の病気にかからないように持ち歩いたことから、全国に普及しました。
 生産量が多いのは和歌山県で、全国の60%以上を占めます。早いものは5月末から出回り始めます。

 梅の酸味は、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸などの有機酸で、疲労回復、殺菌、カルシウムや鉄分の吸収を助ける働きなどがあります。糖分とクエン酸が結合してできるムメフラールは、血流を改善します。
 漢方では未熟な梅の果実を薫製にしたものを「烏梅(うばい)」といい、整腸、健胃、止血、駆虫に用います。

おいしい食べ方と保存方法
 梅干しを作るときにできる梅酢は、調味料として人気です。梅ジャムは、完熟梅を水につけてあくを抜き、ヘタをとり、ポリ袋に入れて冷凍し、1日経ったら使う砂糖の半量で煮ます。ザルでこすように種子を除き、残りの砂糖を加えてさらに煮詰めたらできあがりです。イワシなどの青魚を煮るときに梅干しを入れると、魚のくさみを除き、殺菌効果もあります。
 幼い青梅や種子には毒性のある青酸配糖体が含まれるので、生食は避けましょう。梅は冷蔵庫で保存すると変色するので、早めに加工しましょう。
                        【「食べもの通信」5月号より転載】


2018年2月28日水曜日

3月の旬 葉タマネギ
         薬剤師 橋本紀代子


タマネギの玉がふくらみかけたころ、葉つきのまま収穫したのが葉タマネギです。辛みも香りも穏やかで、青ネギとタマネギのおいしさが同時に味わえます。東日本大震災のとき、私は葉タマネギで肉ジャガを作り、炊き出ししました。
 旬は23月ですが、収穫できるのはわずか2週間ほど。出荷量が最も多いのは千葉県です。
 タマネギの原産地は中央アジアあたりといわれています。栽培の歴史は古く、紀元前15世紀にはエジプトなどで食用にされていました。日本には江戸時代に入ってきましたが普及せず、本格的な栽培は明治以降です。
 葉には体内でビタミンAに変換されるβ-カロテン、ビタミンKも多く含まれます。
 玉の部分にはニンニクや長ネギなどと同じアリシンなどの硫化アリルが含まれており、においのもとになっています。アリシンはビタミンB1と結びついてB1の吸収を助け、疲労回復に役立ちます。
 玉をすりおろし、みそ、ショウガのしぼり汁を加え、熱湯をそそいで飲むと、精油成分が発汗・解熱を助けます。
おいしい食べ方と保存法
 葉タマネギの玉はスライスし、葉は刻んで削り節などとあえ、ポン酢、またはポン酢しょうゆで食べます。
 玉を丸ごとオーブンなどで素焼きし、マヨネーズやみそをつけて食べると、甘みが口いっぱいに広がります。サッと炒めて、焼き肉のたれで味をつけても。
 スープ、お好み焼き、チャーハンにも合います。保存は玉の上のほうを切り、玉と葉に分け、別々にポリ袋などに入れて冷蔵します。葉の部分は早めにいただきます。

【「食べもの通信」3月号より転載】

2017年12月18日月曜日

江戸

江戸のリサイクル


幕末に日本を訪れた多くの外国人は、「道に芥が捨てられていない」「町が奇麗」と驚嘆。
幕府は統制とともに循環型社会を推進する
江戸のリサイクルは、「物は大事に使う」「芥になるものは使わない」当り前の暮らしと、幕府の勤勉、質素・倹約等を奨励し奢侈(贅沢)禁止を進めた政策、当時の芥の種類によって進みました。


江戸時代の焼き接ぎ職人(守貞謾稿より)の拡大画像


 江戸時代の焼き接ぎ職人(守貞謾稿より)の拡大画像
幕府は、定書で「百姓之着物之事、・・布(苧麻)・木綿たるべし」「町人の衣類、上下その分限に随って、倹約を守ること」と布地の質や派手な色合いも禁止、ついには、生活の豪奢な江戸、大阪の豪商を闕所処分にする等の見せしめの統制も。 
綱吉の側用人の柳沢吉保は川越藩で、草木の若芽を漉き込んだ苅敷、草木灰等の肥料や保水を雑木林から得る循環型の新田開発。幕府首脳の自然と共生する循環型社会の「政治哲学」は注目すべきことで、江戸の町には芥改役を置き、芥の処理。
リサイクル生業のネットワークで質素なシンプルライフ
生活自体がシンプで必要以上の物はない生活をする庶民の生活水準がリサイクルを進め、社会自体が物資の循環を生業・産業のネットワークを確立。  



一つ目は、紙屑・古着・古銅・古鉄・古器物・樽・灰・古傘・蝋燭の流れ・大便等を回収する業。二つ目は、それらを修理・再生する業。屑鋳鉄師、印肉仕入、臼目立て、下駄歯入れ、錠前・雪駄・算盤直し、瀬戸物焼き接ぎ、提灯・傘張替え、磨師、眼鏡の仕替え、煙管の竹管替える羅宇羅屋,桶・樽の輪替のたが屋、竈師。三つ目は、再生したものを販売する業。浅草紙・還魂紙、銭を緡に差す時に使う銭茣蓙売り,古着屋、襟や裏地を売る半襟屋、棕櫚箒・縄・タワシ売り等々。
多くの生活用品が回収・修理・再生・販売されました。、着物の場合、着物・浴衣寝巻下着おむつ→雑巾→燃料→灰→肥料等→綿花→着物・浴衣という徹底した循環型。

着物は古着だが意気なお洒落

棒手振りや職人等の庶民の住いは、「間口九尺奥行二間」の裏店。土間には竈。自前の台所用品は、包丁、杓文字,皿、笊、茶碗,箸、すり鉢くらい。そして、布団一式。
着るものは、日本橋や大伝馬町の高級呉服店では買えず、神田川沿いの柳原土手や日本橋富沢町で古着を買います。
幕府の統制に対して江戸っ子は、友禅や江戸紫の江戸鹿子、江戸小紋、歌舞伎で流行った団十郎茶等で意気地、貧しくても湯屋と髪結いを毎日欠かさぬ粋を見せました。

「江戸の朝炊き」寒さ対策
食事の主食米は、「江戸の朝炊き」。一日分のご飯を炊き、昼は、朝の残りの冷や飯で残りの汁物などのぶっかけ飯。夜は早く寝るために食べないことも。裏店を出れば、蕎麦,天婦羅、寿司等の屋台もあり、天婦羅を食べ「天ぷらの指を擬宝珠へ引んなすり」と屋台で食べる江戸っ子たち。

当時高給取りの大工の手取りは一日540文位。米代一日三食茶碗3杯で約315文、豆腐14文・納豆4文、鮭の切り身12文、味噌・醤油17文…総計160文位(一文に20円かけると大体今の金額)
豆腐は今の豆腐の大きさの46倍ほどで、天明の飢饉の頃からでたベストセラー「豆腐百珍」」・・・・等で料理の仕方を工夫して豊かにします。  
江戸時代は、「江戸小氷期」。寒ければ、肌襦袢の上に長襦袢、下は股引に足袋(八丁堀の旦那のように毎日紺足袋は替えられない)の重ね着。それで耐えられなければ、湯たんぽや懐炉で暖まりました。わざと薄着をする「伊達の薄着」で冬を通す男衆も。
明かりに使う「百日蝋燭」は一本200文、匂わない、油は値が高く「早寝が得」。火事の多い江戸では、穴倉に家財を埋めて逃げる、だから江戸の町の十分の一は穴だったと。

裏店の「金の生る木」
 裏店の井戸と便所は共同使用。通例、大三か所、小一カ所。大小を分けて、大の方は葛西船で農民に肥料として売り、家守が共益金として長屋の管理と年始の店子への餅配り等
に使用した「金の生る木」。特上は幕府や大名の勤番者の「きんばん」、上は、町の中
にある公衆便所の「辻肥」、裏店の「町肥」等々、大にも値段の違いがありました。
出たごみは裏店に芥溜を作り生ごみ(肥料に)とその他に分け、町内のごみの集積場に、そ
れを芥船で、永代島や深川洲崎十万坪の埋め立てに。

循環型を築き上げた江戸時代
江戸社会は、1700年当時の人口世界シェア5%を占めた3000万人、幕末のGDPは、米国を一とすると、日本は1,75倍、英国2,8倍、阿蘭陀0,3倍という指標もあるほど。世界史的に大きな比重を占めた江戸は、貨幣経済を発展させ、自然と共生し循環型社会を当たり前にした社会でした。 


【読み】
(ごみ)
(かん)魂紙(こんし)(さし)差す時つかう(ぜに)茣蓙(ござ)売り
棕櫚(しゅろ)


2月の旬   イチョウイモ
                薬剤師 橋本紀代子 
 
先端がイチョウの葉のような形をしています。ヤマイモの一品種です。粘りが強くアクが少なく、変色しにくいのが特長です。
 関東ではヤマトイモとも呼ばれますが、関西で「ヤマトイモ」というとげんこつのようなツクネイモを指します。
 一般的にはとろろ汁に用いることから、ジネンジョ(自然薯)やナガイモなども含めてとろろイモといいます。
 原産地は中国で、紀元前から栽培されています。日本での栽培も縄文時代後期から。収穫は1112月です。
 イチョウイモはでんぷんの消化酵素であるアミラーゼが多く、「ジオスゲニン」という天然のステロイド、疲労回復に効果のあるビタミンB群やビタミンCも含まれます。
 漢方で山薬(さん やく)と呼ばれるナガイモは滋養強壮、下痢を止める、夜間頻尿を改善するなどの働きがあるとされていますが、イチョウイモにも同じ効果があります。

おいしい食べ方と保存法
 とろろ汁は、すりおろしたイチョウイモに冷ましただし汁を加えます。だし汁を冷ますのは、消化酵素が熱に弱いからです。
 酢のもの、煮物、スープ、芋がゆ、油炒め、ソバやかまぼこのつなぎ、お菓子にも用います。
 イチョウイモをすりおろし、鶏ササミ、シイタケ、ニンジン、香りのよい野菜を加え、好みの味をつけ、丸めて油で揚げたりハンバーグのように焼くと、メインのおかずができます。
 生食はじんましんやぜん息を引き起こすことがあるので、アレルギーの有無がわからない乳幼児は食べないほうが安全です。保存は新聞紙にくるみ、冷蔵庫に。

【「食べもの通信」12月号より転載】

2017年11月2日木曜日

          11月の旬 ナガネギ 
          薬剤師 橋本紀代子
 東日本では白い部分が多い根深ネギ(白ネギ)、西日本では、おもに緑の部分を食べる葉ネギ(青ネギ)が一般的です。ほかに、香りの強いネギ、小ネギ、軟らかいネギ、太ネギ、甘味の強いネギなど、全国で多くの伝統品種が栽培されています。
 原産地は中国西部、モンゴル辺りの草原です。中国では数千年前から栽培され、日本に伝来したのは5世紀頃です。
 旬は冬。寒くなると甘みが増します。出荷量が多いのは千葉、埼玉、茨城などの各県です。
 強い香りは「アリシン」という成分です。ビタミンB1の吸収を良くし、消化液の分泌を助け、血管をひろげて血流を改善し、抵抗力を高めます。
 緑色の部分には、ビタミンAやミネラルが多く含まれています。さらに、緑の葉の内側にあるぬめり成分「ヌル」は、免疫力をアップさせます。
 漢方ではネギの白い部分を葱(そう)(はく)といい、発汗、解熱、健胃、喉の痛みをやわらげる、気持ちを安定させるなどの働きがあるとされます。

おいしい食べ方と保存法
 風邪の初期にはみじん切りにしたネギ、おろしショウガ、梅干し、削り節などにみそを加え、熱湯を注いで飲みます。
 お好み焼きの「ネギ焼き」やネギラーメンには、青ネギをたっぷりのせます。ネギの卵とじは斜めに切ったネギを少しの油で炒め、だししょうゆをかけて溶き卵でとじます。
 豆腐ステーキは豆腐を1㎝の厚さに切り、水気をとって油で両面を焼き、きざみネギと削り節をのせ、しょうゆをかけて蒸し焼きにします。ネギの保存はラップでくるみ、野菜室に。           【「食べもの通信」11月号より転載】

2017年10月13日金曜日

                    10月の旬  
            シイタケ
                   薬剤師 橋本紀代子
 コナラ、クヌギ、シイなどの枯れ木に生える木材腐朽菌の一種です。独特の香りと味があります。
  中国、朝鮮、フィリピン、日本などに分布しています。日本での栽培は、江戸時代中期からといわれています。干しシイタケは原木栽培されたものが多く、大分県が圧倒的な生産量を誇ります。生シイタケは菌床栽培が主流で、生産量が多いのは徳島県、北海道などです。
 シイタケには日光(紫外線)に当たるとビタミンD2に変化し、骨の形成を助けるエルゴステロールが豊富に含まれているため、骨粗しょう症などの予防に役立ちます。
 エリタデニンやフィトステリンは、血液中のコレステロールを掃除し、動脈硬化、糖尿病、老化防止に効果があります。
  日本の民間療法では、きのこ類は不老長寿やがんの薬とされ、免疫力を高め、抗がん作用をもつといわれる成分の研究もおこなわれています。
おいしい食べ方
 新鮮なシイタケは、網焼きにしてそのまま、あるいは少量のしょうゆやレモン汁などでいただきます。バターで炒めてポン酢で食べたり、肉詰め、鍋料理、天ぷら、炒めものにしても。和食の総菜や中華料理、西洋料理にもよく合います。
 干しシイタケは水に浸け、冷蔵庫で1晩置いて戻しますが、空気を抜くことができる容器に水と一緒に入れると、5分で戻ります。
 戻し汁にはうま味のもとや薬効成分が多く、「シイタケ水」として飲む健康法もあります。お吸い物や煮物のだしにして使い切りましょう。

【「食べもの通信」10月号より転載】

2017年8月31日木曜日

          9月の旬  クリ
                                      薬剤師 橋本紀代子 
  日本人は縄文時代からクリを栽培し、食用にしてきました。子どものころ、山で拾ったクリを生で食べるとポリポリと音がして、ゆでると濃い味がしました。祖母がせいろで蒸してくれたクリおこわの味も、懐かしく思い出されます。
 現在、売られているクリはシバグリを改良したニホングリが多いようです。大きくて粘りがありアクが少ないが、渋皮がむきにくく少し手間がかかります。
 出荷は茨城県が飛び抜けて多く、愛媛県、熊本県と続きます。
 クリのおいしさは何といってもあの甘味と歯ごたえです。甘味のもとは、ショ糖やブドウ糖。糖質の代謝を促すビタミンB1、 B2、ナイアシンを含み、疲労回復の効果が期待できます。ビタミンCが豊富ででんぷんに守られているため、加熱しても損失が少ないのも特長です。
 食物繊維も多く、便秘の改善にもおすすめ。渋皮に含まれるタンニンには抗酸化作用があり、動脈硬化や老化を防ぎ、血流を良くする働きがあります。
 漢方では、クリは胃腸を丈夫にし、足腰がしっかりする働きがあるとされています。
おいしい食べ方と保存法
 クリの下ごしらえは熱湯で3分ゆでて、そのまま30分浸けておき、鬼皮と渋皮をむきます。渋皮煮は重曹を加えて何度もゆでこぼしたら、砂糖で煮含めます。
 生グリは、鬼皮に穴や黒ずみがあるものを除き、洗って水気を取り、新聞紙にくるんでチルド室に入れると1週間保存できます。ポリ袋に入れて冷凍した場合は、使うさい凍ったまま熱湯で煮ます。ただし崩れやすくなるので、甘露煮などクリの形を生かした料理には向きません。
【「食べもの通信」9月号より転載】